相撲記者長山の歴史コラム 相撲記者長山の目「巡業の取材」その3
2019年8月7日 11:55配信
近年、日本人力士で一番の怪力を誇ったのが現浅香山親方の元大関魁皇。
“握力計を振り切って測定不能”とか
“凍った水道の蛇口を強引にねじって壊してしまった”
“中の詰まったビールケース左右の手に2箱ずつぶらさげて4箱いっぺんに運んだ”
などの様々な伝説がある。
関脇だった平成7年、日テレの24時間テレビの腕相撲大会に出場し、タレントのチャックウイルソンやプロレスラーなどを秒殺して、見事に優勝を果たした。どれくらい腕力があるのか興味が湧き、その後に行われた秋巡業で、魁皇に挑戦をしてみた。もちろん通常の腕相撲では全く勝負にならないのは明白なので、魁皇には人差し指一本で勝負してもらうことにした。結果は魁皇の指一本を右手全部で握っても動かせず、あえなく敗北。魁皇の恐るべきパワーには敬服せざるを得なかった。
そんな魁皇だが、抜群の素質がありながら長い間三役から抜け出せず、なかなか大関に昇進できなかった。「強い魁皇Aと弱い魁皇Bと2人いるみたい」と尋ねると、
「ホント、そんな感じだね。要は押し相撲とどう取るかなんだよね。負けが込んでくると自分でも何をしていいかわからない時がある。基本的に何か抜けているのかなあ。もっと集中力を持たないとね」
と自己分析。
この会話を隣で聞いていた、当時協会専属トレーナーだった小美濃氏は「魁皇はA、Bの2人ではなく、酔っぱらった魁皇Cの3人いるよ」と鋭い指摘。
普段は温厚な魁皇だが、お酒が入ると人格が変わるのは様々な角界関係者が証言している。
“行先が書いてあったバス停を引っこ抜いた”
“海外巡業で当時の境川理事長(元横綱佐田の山)に「はげオヤジ」と言いながら肩を組んだ”
“一緒に飲んでいた若い衆が血まみれになった”
など、酔っぱらい伝説も怪力伝説に負けないほど多い。
そのことにも触れると、
「酔うと記憶がなくなり、気がついたら部屋で寝ていたこととかも多いんだ。それで無茶なこととかをしているんですよね。隣の人がアザだらけになっていたりとかね(笑)。自分では全然覚えていないのですが、次の日いろいろと言われてどれだけ辛いか…(笑)。そういうことをしないようにと思っているですが、飲み始めるとどうしようもなくなるんです(笑)」
とシラフの魁皇は殊勝に語っていた。
その後、魁皇Bが徐々に減っていき、大関に昇進し5回の優勝を果たした。しかし魁皇Cはいつまでも健在だった。
次回に続く