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インタビュー

隆の勝(前編):5月場所で初金星&殊勲賞の快進撃 隆の勝の勝因とは

2022年6月22日 11:38配信

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日本の伝統文化を色濃く継承する、華やかな大相撲の世界。力士たちは皆、なぜこの道を志し、日々土俵に向かっているのだろうか。本連載コラムでは、さまざまな人気力士たちにインタビューし、その素顔を探っていく。

今回お話を聞いたのは、5月場所で自身初の金星・殊勲賞を獲得した隆の勝関。一時は優勝争いの単独トップに立ち、11勝4敗の好成績で場所を盛り上げた。後半戦は緊張もあったという今場所を振り返っていただく。

聞き手・文・撮影/飯塚さき

初金星を獲得した照ノ富士戦を振り返る

――5月場所では、横綱・大関陣を倒し、11勝4敗の好成績で場所を盛り上げた隆の勝関です。一時は優勝争いの単独トップに躍り出るなど、見せ場が多くありました。今場所を振り返ってみていかがですか。

隆の勝関(以下、「」のみ)「初日は阿武咲関、3日目は阿炎関に負けてしまい、出だしはよくなかったんですけど、途中から流れがよくなってきました。だんだん白星を重ねられていたので、気持ちは楽だったし、落ち着いていけたかなと思います」

――4日目から9連勝。10日目には勝ち越しを決めましたね。そのなかで、中日の横綱・照ノ富士戦では、自身初の金星を獲得しました。勝因はどこにあったと思いますか。

「毎場所胸を借りるつもりで向かっていくなかで、なかなか勝てなかったんですけど、思い切りいくしかないと思っていました。止まったら絶対勝てないので、一気に行くしかない。それだけを考えてできたのがよかったのかなと思います。あと、横綱戦に関しては、右ののど輪で相手の体を起こせたのが一番大きかったですね。そこから中に入れたので、このまま行けば大丈夫だと思いました。勝てたのでよかったです」

――最後は横綱の足が土俵の外に出てしまったのですが、体勢としては関取が逆転の突き落としを食らうような形で土俵下に落ちていきました。あの瞬間、ご自身で勝敗は見えていなかったのでは。

「そうなんです。土俵際は、自分は相手の足が出たってわからなかったので、負けたと思いました。でも、行司さんを見たらこっちに軍配が上がっていたので、よっしゃ! ってなりました。夢中で押していたので、勝ったことは全然わからなかったです。でも、今場所一番印象的な一番でしたし、気持ち的にも自信になりました」

――しかも初の金星ですよ。

「うれしかったです。やっと勝てたっていう感じですね」

好成績残すも、課題は「精神面」

――後半戦も快進撃が続きました。12日目終了時点では、優勝争いの単独トップに立ちます。ここからの心境はいかがでしたか。

「単独トップに立ったとき、優勝を一番意識しちゃいました。いままで単独トップってなくて、そんなこと初めてだったので、だいぶ緊張しました。13日目の相撲は、後で見返しても、これじゃ勝てないよなって感じですよね」

――千秋楽の佐田の海戦は、勝てば優勝、または決定戦への望みをつなぐ一番でしたが、惜しくも敗れてしまいました。振り返っていかがですか。

「相当緊張していましたね(笑)。優勝っていう字がちらちらと頭の中をよぎるので、体が硬くなって、思うように相撲が取れませんでした。悔しかったですね。ただ、あそこまで行けたのは自信になりました」

――あらためて、場所を通して印象的な取組はどれでしょうか。

「一番は横綱戦ですが、大関の御嶽海関、正代関に勝てたのもよかったです。あとは、殊勲賞を初めてもらえたのもうれしかったです。千秋楽の取組前にわかっていましたが、初めてだったのでよかったなと思いました」

ケガしない体には母のサポートも

――ご自身の取り口の強みは、どんなところにあると思いますか。

「押し相撲なので、前に前に出ること。下半身を中心的に鍛えているので、押す力や馬力が強みかなと思います」

――4年ほど前、ご両親に取材させていただいたのですが、整体師であるお母様が、場所中でも取組を見て悪そうなところがあれば治療してくれているそうですね。これまで大きなケガに見舞われた経験がないのは、お母様のサポートも大きいのではないでしょうか。

「はい、それはだいぶ大きいですね。悪かったらすぐ治してくれますし、ケガしない体をつくってもらっているのは強みです」

――逆に、いまの課題はなんでしょうか。

「とにかく緊張しないこと(笑)。体の面では、あまり悪いところはなく、悪い相撲を取っているわけではないかなって個人的には思っているので、もう本当に、プレッシャーに強くなること、精神面が課題です。いいときの相撲を毎場所できるような精神面というか、メンタルの強さ。それはこの先大事になってくるだろうなと思います」

――技術的な面ではいかがですか。

「押し相撲は立ち合いが大事なので、立ち合いのスピードや出足がいまは課題です。これからもっともっと早く踏み込めるようにできればいいなと思っています」

――普段、相撲の研究はされていますか。

「しますね。場所が終わって自分の取組だけ15日間通して見て、一番一番、ここがダメだったから負けたとか、いろいろ分析はしています。次の場所のための稽古場でやらなきゃいけない課題をそこで見つけているんです。相手のことも見ることは見ますが、それよりも自分を直さないとどうしようもないので、自分の取組を見ますね。自分が強ければ、自分優位に戦えるので、そっちのほうが重要かなと思っています」

(第40回・後編へ続く)

【プロフィール】

隆の勝 伸明(たかのしょう・のぶあき)

1994年11月14日生まれ。千葉県柏市出身。小学1年生のときに柏市の相撲大会に出場し、準優勝。3年生から柏相撲少年団に入り、本格的に相撲を始める。全国中学校相撲選手権に、千葉県代表団体戦メンバーの1人として出場。中学卒業後、千賀ノ浦部屋に入門し、2010年5月場所に初土俵を踏む。17年9月場所、東幕下3枚目で6勝を挙げ、悲願の新十両に昇進。18年9月で幕内に昇進し、20年11月場所で新三役(関脇)。先の5月場所では、中日に照ノ富士を下し、自身初の金星を獲得。最後まで優勝争いに絡み、11勝4敗で初の殊勲賞を受賞した。最高位は西関脇。身長185cm、体重170kg。得意は押し。

【著者プロフィール】

いいづか・さき

1989年12月3日生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーランスのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)、『IRONMAN』(フィットネススポーツ)、Yahoo!ニュースなどで執筆中。

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