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インタビュー

霧馬山(後編):遊牧民の祖父をもち乗馬が大好き おだやかな素顔に迫る

2023年4月28日 11:30配信

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日本の伝統文化を色濃く継承する、華やかな大相撲の世界。力士たちは皆、なぜこの道を志し、日々土俵に向かっているのだろうか。本連載コラムでは、さまざまな人気力士たちにインタビューし、その素顔を探っていく。

3月場所で見事初優勝を果たした霧馬山関へのインタビュー後編。遊牧民の祖父をもち、乗馬が大好きだという関取に、相撲のことやそれ以外の趣味についてなど、幅広く伺った。おだやかな関取の素顔に迫る。

聞き手・文・撮影/飯塚さき

「自分だけじゃなく部屋の皆さんの優勝」

――関取は、稽古以外に筋トレはしますか。

霧馬山関(以下、「」のみ)「部屋でもジムでもやりますよ。トレーニングをすると、体の全体的に力がつきます。例えばスクワットは下から上まで全身使うから、そうすると力がどんどんついてくる。トレーナーの先生がついてくれて、ちゃんとやったかやっていないかまでチェックされます(笑)。鶴竜親方の現役中についていたトレーナーの先生が、いま週に1~2回来てくれているので、若い衆も見てもらっているんですよ。筋トレをしてから稽古場で力を出すと、すごく変わったのがよくわかるんで、もっとやったほうがいいな、やりたいなって気持ちが出てくるんですよね。逆に、筋トレしないと稽古場で力が出ないときもあるくらいだから、やらないと」

――食事面は何か気をつけていますか。

「なんでも食べるけど、甘いものだけあんまり食べないようにしています。あとは、プロテインとかは飲んでいます。稽古で使った分、エネルギーを戻すために飲まないといけない。そういうことも、トレーナーの先生がプロテインのメニューを作ってきて教えてくれます。この生活は、自分一人の力ではできません。いろんな人に支えられているので、自分じゃなくて部屋の皆さんの優勝だったなって思います」

――胸がジーンとして泣いてしまいそう。

「いえいえ、そんな(笑)」

――あまりいままで聞いたことがなかったのですが、趣味などについてもお聞きします。好きな音楽はありますか。

「最近モンゴルから出てきた世界的ロックバンドのThe Huを、取組前とかによく聞いています。本場所では緊張するんですけど、音楽を聞いたら緊張したり変なことを考えたりしないんです。音楽を聞いてリラックスしたら、どんどんやる気が出てくる。日本の音楽だったら、普段はあんまり聞かないけど、長渕剛が好きです」

――家では普段何をしていますか。

「夜はジムに行くので、その前の1時間くらいは寝なきゃいけないです。ジムに行かない日はゲーム。そういうときは相撲のことを考えないで、ゲームにだけ集中します。リラックスにもなりますね」

霧馬山に聞くモンゴルの魅力

――関取は乗馬がお好きと以前伺いました。最近乗馬はしましたか。

「はい、大阪へ行く前に一日だけ乗りに行きました。馬には小さいときから乗っているので、乗り方は忘れないけど、久しぶりだと怖さはあります。あと、次の日筋肉痛で歩けなかったです(苦笑)。普段相撲で使っていない筋肉使うんでしょうね。もちろん、わかっているから次の日が休みのときに行くんだけどね」

――そうでしたか。モンゴルのご両親は今回の快挙をどんなふうにお話しされていましたか。

「喜んでいますよ。優勝した後、お父さんお母さんはずっと忙しかったみたい。いろんな人が家に遊びに来たり、携帯が鳴りやまなかったり。そういうのを聞いてしまうと、がんばらないといけないなって思いますね。でも、まだこれから。まだまだ始まったばかりです」

――次に帰れそうなのはいつですか。

「考える時間もないですね。前に帰ったのは新十両のときだから、もう4年前くらい。次の場所が終わって、いい報告があれば帰れると思います」

――ちなみに、モンゴルおすすめ料理や、関取の地元の自慢はなんですか。

「料理でお勧めなのは、ボウズという餃子みたいな料理です。地元のドルノドゥは、ウランバートルから600キロ離れていて、車で8時間くらい。自慢はやっぱり景色かな。星がきれいで有名なんです。夏の夜がとてもいい。草原の緑と空の青。風も通るしすごく気持ちいいんですよ」

あこがれの力士は「もちろん師匠」

――相撲の研究は普段どうされていますか。

「YouTubeで、自分のスタイルに似ている人の動画を見ます。一回見始めたら止まらないんです。一番たくさん見たのは、やっぱり師匠の霧島関。あとは日馬富士関、鶴竜親方もそうですね。昔、先輩から『YouTubeで動画を見るのも稽古のひとつだ』と言われました。相撲部屋に入ったら、稽古をやるのはもちろん、上の人たちの稽古を見るのも稽古だし、ご飯を食べるのも寝るのも稽古です」

――あこがれの力士は。

「もちろん師匠です。自分はまだまだ力が足りないけど、師匠みたいにできるようにしたい。特に、親方はまわしを取ったらものすごく強くて、吊り技もします。自分はいままで2回しかできたことがないんです。吊るタイミングは何回もあったけど、失敗したら泣いちゃうので(笑)、そう思うとどうしてもゆっくり、勝ち急がないで勝とうって思ってしまうんですね。吊れるようになったらいいんですけど。そう考えると、師匠の力って半端じゃないです」

――そんなあこがれの師匠に教われるのは素晴らしいことですね。

「はい。自分は、相撲のことは何もわからずに入ってきて、親方に教えてもらったようにやったらできるようになりました。経験があって入ってきたらすでに型があったかもしれないけど、何もないなかで、師匠に言われたことその通りにやってきたので、いま満足しています」

――逆にいまの下の力士たちで対戦してみたい人はいますか。

「最近は、落合関など学生出身の子が増えていますよね。出世がものすごく早いから、いつか当たると思うので負けたくありません。あと、同じモンゴル出身の玉正鳳関の相撲なんかは、15日間楽しみに見ていました。上がるまで時間がかかったけど、十両で勝ち越してよかったです。こちら(幕内)に上がってくるのも楽しみにしています」

――ありがとうございます。最後に、ファンの皆さんへのメッセージと来場所の目標をお聞かせください。

「ファンの皆さんからの拍手や『霧馬山がんばれ』って声援で、15日間ものすごく力になりました。次の15日間もがんばりたいと思います。鶴竜親方の断髪式が6月にあるので、いい成績で迎えたいですね。でも、あんまり考えずに一日一番を大事にやっていこうかなって。もしそれでだめだったらまたゼロからやり直したいと思います」

【プロフィール】

霧馬山鐵雄(きりばやま・てつお)

1996年4月24日生まれ。モンゴル・ドルノドゥ出身。柔道経験があり、大会で日本各地に訪れたことがあったが、2014年に未経験ながら陸奥部屋で大相撲の体験入門のため来日。師匠の陸奥親方に声をかけられ、2015年5月場所に初土俵を踏む。3年後に幕下優勝ののち、2019年3月場所で新十両に昇進。翌2020年1月場所で新入幕を果たす。2021年11月場所で新三役の仲間入りを果たし、新関脇となった先の3月場所で、トップを走っていた大栄翔を本割、優勝決定戦で下し、逆転。自身初の優勝を果たした。身長186センチ、体重140キロ。得意は左四つ、寄り、投げ。

【著者プロフィール】

いいづか・さき

1989年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーランスのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)、『IRONMAN』(フィットネススポーツ)、Yahoo! ニュースなどで執筆中。

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