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相撲記者長山の歴史コラム 私の取材したちょっといい話 出島

2020年12月11日 17:35配信

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堅固にこうして見えた若貴、曙、武蔵丸、貴ノ浪の5人体制も、千代大海がぶち破ったことで、時代は大きく動き始めていた。ちょうど5人体制の牽引車だった貴乃花が、病気やけがで低迷している時期ということもあり、奮起する力士は多かった。

その中の1人が出島だった。当初は石川県の同郷で、小学時代からのライバル栃乃洋と競うように番付を上げてきた。平成9年九州場所では、そろって新三役に昇進。その時に話を聞くと、出島が「『田舎ではアイツ(栃乃洋)だけには負けるな』と言われてます(笑)」と言うと、栃乃洋は「こっちも『ヤツ(出島)に負けたら帰ってくるな』ですからね(笑)」と応じていた。

それでも前に出る相撲のほうが上位を目指すには有利で、その後、常に出島が出世争いをリードした。

平成11年夏場所では、8日目に出島が栃乃洋を破り対戦成績を4勝1敗とした。しかし、この1番は出島が立ち合いに左へ変わってはたき込んだもの。「変かはとっさ。相手があまりに低かったからね。ライバル対戦? 自分たちはそうでもないけど、地元(石川)の後援者同士が『アイツにだけは負けるな』と熱くなっている。向こう(栃乃洋)は『あんなきたない立ち合いに負けやがって』とか言われているんじゃないですか(笑)」とやや自嘲気味に語っていた。

この場所関脇で11勝を挙げた出島は、大関をかけて翌名古屋場所に臨んだ。“出る出る出島”の異名通り、出島の出足はさえわたり、1敗同士で9日目に横綱貴乃花と対戦した。出島は低いぶちかましから右差し、左ハズの電車道で横綱を圧倒。支度部屋で貴乃花が「(出島は)強かったよ。あの出足は横綱だよ(笑)」と思わず苦笑いを浮かべるほどだった。

出島は11日目に魁皇にはたき込まれ2敗目を喫するが、14日目終了時点で、1敗の曙を1差で追って千秋楽を迎えた。出島は栃東を寄り切り2敗キープ。結びの1番では2年2か月ぶりの優勝を目指す曙が、固くなったのか武蔵丸のすくい投げに屈した。同部屋の兄弟子の援護射撃を受けた出島は、決定戦では左変化から右差し左ハズで押し込み、最後は右手を相手の胸にあてて一気に押し出し、初優勝。初場所の千代大海に続いて、この年2人目の大関昇進を果たした。

私の取材したちょっといい話 出島 大関昇進を決めた平成11年名古屋場所。支度部屋ではおだやかな表情を見せる出島

ちょうど美容研究家の鈴木その子さんが「美白の女王」として人気を集めていた時期であり、「美白大関」としてプチブレイク。その年の夏巡業中に独占インタビューを行った。

「千秋楽は横綱(武蔵丸)がお膳立てをしてくれて、「あとは任せたぞ」と託された絶好のチャンスが目の間に現れたわけじゃないですか。いやー、緊張しましたよ。胃袋が飛び出しそうでした(笑)。でも、勝ち負けなど何も考えず、自分の持っているものを全部ぶつけようと思いました」

「伝達式では、使者がくるまでドキドキしっぱなしでした。部屋の周りもテレビ中継車まで来て慌ただしい状態ですから。朝、自分の部屋から窓のブランインドを指でちょっと下げて外をのぞいたりしてたんですよ。ドラマの刑事みたいにね(笑)」

出島は普通の一般家庭に育ったこともあり、いわゆる「宵越しの金は持たない」といった昔風の豪快なお相撲さんとはタイプが違った。

「大関昇進後、一部の報道では貯金が趣味で、1億あるなんて書かれましたよ(笑)。あれから力士のみなさんから『また貯金かよ』なんて言われて困ってます(笑)」

また、出島を取り上げたワイド―ショーでは、千代大海同様、やはり母親が目立っていた。

「母は1人で冗談を言って、1人で笑ってますからね。でも、嫌みがないのでみんなから好かれてます。いつも知人に『母ちゃん元気か?』と聞かれます。「父ちゃん元気か?」と聞かれたことはありません。父ちゃんもいるんですけどね(笑)。まあ、女の人が明るければ、家庭は明るくなりますよね」

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