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インタビュー

伯桜鵬(前編):14勝1敗も課題はある 新入幕を決めた5月場所を振り返る

2023年6月21日 13:29配信

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日本の伝統文化を色濃く継承する、華やかな大相撲の世界。力士たちは皆、なぜこの道を志し、日々土俵に向かっているのだろうか。本連載コラムでは、さまざまな人気力士たちにインタビューし、その素顔を探っていく。

今年初場所、幕下15枚目格付け出しでデビューすると、いきなり7戦全勝。史上初の1場所通過で新十両に昇進し、大きな話題を呼んだ宮城野部屋の落合関。5月場所では14勝1敗の好成績で、来場所の新入幕を決めた。四股名を「伯桜鵬」に改めた注目の関取に、幅広く話を伺う。

聞き手・文・撮影/飯塚さき

14勝1敗も「課題はたくさんある」

――5月場所は、2場所目となった十両の土俵で14勝1敗。素晴らしい活躍でしたが振り返っていかがですか。

伯桜鵬関(以下、「」のみ)「いい成績でうれしいのかなとは思うんですけど、優勝決定戦で負けた豪ノ山関には、大阪場所から本割、決定戦と3連敗しているので、すごく悔しい部分も残りました。成績はよかったんですけど、内容はよくない相撲もあったので、課題はたくさんあります。あとは、ケガのある状態で15日間やり切れたのはうれしかったし、ありがたかったです。いまも状態はあまりよくないけど、名古屋場所に向けて治療とトレーニングを始めているので、なんとか調整できたらいいなと思っています」

――豪ノ山関はやはり強かったですか。

「そもそも自分が豪ノ山関より弱い。ただそれだけだと思うんですけど、悔しかったですね。いまのままじゃ当然勝てないので、まずは自分が強くならないといけないなと思います」

――課題も残るとおっしゃいましたが、具体的にはどんな部分ですか。

「今場所は立ち合いがあまりよくなくて、立ち合いから押されたり、土俵際で無理やり残ったりした相撲が何番かありました。自分の理想の前に出ていく相撲とは違う、ケガのリスクのある相撲が多かったと思います。克服には稽古あるのみですね」

――稽古場でのポイントは。

「基礎運動をしっかりやるのと、申し合い(実践の稽古)では、相手が誰であれいかに早く自分の型になるかを意識して練習しています」

――どんな形でも取れる関取ですが、目指している理想の自分の型はなんですか。

「低く速い立ち合いから相手を起こして懐に入り、相手よりも早くまわしを取って攻めていく。または相手の両ハズを攻めていく速い相撲を理想としています。師匠(元横綱・白鵬)の現役時代のビデオをたくさん見て、それを稽古場で試すのが、技に関しては一番覚えやすいと思っています」

――親方のどんな部分を参考にしているんでしょうか。

「師匠のまわしの切り方や投げを見て、それを稽古のときに師匠の前でどんどんやってアドバイスをもらうようにしています。口だけで言ってもなかなかわからないことは師匠もわかってくれているので、実際に肌を合わせて具体的にどうやるのかを体で教えてくれます。そうじゃないとなかなかできないくらい、相撲は難しいので」

――最近、師匠からもらってよかったアドバイスはどんなことですか。

「14日目、鳥取城北の先輩でもある狼雅関との対戦前、朝稽古で師匠から熱い指導を受けたんですけど、その日の相撲は立ち合いの流れからすべて師匠が言った通りになりました。それができたのもうれしかったし、あらためて師匠の研究力がすごいなと感じました」

緊張はしないが「興奮して眠れないときはある」

――師匠の研究力はたしかに高いと思いますが、ご自身でも相撲の研究はしますか。

「はい、対戦相手の研究は必ずするタイプです。前日に対戦相手のビデオを見て、強さや弱点を探し、その上で自分がやってはいけないことを明確にして、朝稽古で試して本場所に臨むのが自分のやり方です」

――土俵上では本当に落ち着いていて貫禄のある関取ですが、メンタル面はどう養ってきたのでしょうか。

「緊張したときや落ち着かないときは、鼻から吸って口から吐く、長くゆっくりした呼吸をします。もともと緊張はあまりしないけど、落ち着かないときや興奮しているときによくやるし、常に呼吸は意識しています。あと、相撲って自分のことなんで、勝っても負けても自分に帰ってくると思えばあまり緊張しない。でも、部屋では興奮して眠れないときもあるくらいです」

――高揚感で眠れないということ?

「はい、明日の相手とどう戦おうかと考えているとき、プロの力士になったなって感じるんですが、手汗をかいて眠れなくなっちゃうときもあります」

宮城野部屋での生活は「力士になった実感」

――北青鵬関や炎鵬関といった関取衆はじめ、いろんな力士の方がいますが、部屋の兄弟子たちとはどんな生活をしていますか。

「宮城野部屋はみんないい人ですが、特に自分は川副さん(新十両・輝鵬)にとてもかわいがってもらっていて、よく一緒に温泉やごはんに行きます。一番面白いお兄さんです。部屋でも自分が年下なんで、みんなお兄ちゃんみたいな感じでかわいがってもらっています。部屋のみんな仲良しで楽しいです」

――地元の先輩でもある石浦関が、先日引退して親方になりました。

「自分がプロに入る前から石浦関はもうケガで休場していて、『俺はもう相撲取れるかわからないけど、お前が強くなるためにサポートするからな』と言ってもらってすごくうれしかった。中高の先輩でもあり、東京から白まわしをつけて学校の稽古場に来てくださった姿がすごくカッコよくて、自分もいつかこうなりたいというあこがれもあったので、そろそろ引退なのかなって思ったら、うれしいけどさみしかったというか。同じ関取として、一緒にガンガン稽古してみたかったですね。でも、いまも一番サポートしてもらっています」

――そんな思いがあったんですね。力士になって約半年。生活はどう変わりましたか。

「自分の好きな相撲というものを仕事にできているな、好きなことでお給料もらって生活できるのは幸せだなと、そういう実感がようやく沸いてきました。こうして着物を着てびんつけ油を頭につけるだけで、お相撲さんって感じでうれしかったです。髪はなかなか伸びないんですが、来年の大阪場所で髷が結えるんじゃないかって言われています」

(第52回・後編へ続く)

【プロフィール】

伯桜鵬哲也(はくおうほう・てつや)

2003年8月22日生まれ。鳥取県倉吉市出身。小学4年生から相撲を始め、高校は地元の強豪・鳥取城北高校へ進学。2年次、3年次の高校総体で高校横綱のタイトルを獲得。3年次には全日本選手権でベスト8。卒業後は、肩の治療のためプロ入りは見送るも、実業団横綱を獲得。幕下15枚目格付出の資格を得て、宮城野部屋に入門した。今年初場所でデビューし、いきなり7戦全勝。史上初の1場所での新十両昇進を決めた。先の5月場所では14勝1敗の好成績で、来場所の新入幕を果たす。身長181センチ、体重162キロ。得意は突き、押し、左四つ、寄り。

【著者プロフィール】

いいづか・さき

1989年12月3日生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーランスのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)、『IRONMAN』(フィットネススポーツ)、Yahoo!ニュースなどで執筆中。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』(ホビージャパン)。

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