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インタビュー

朝乃山(後編):どん底を乗り越え「原点回帰」 奮起の原動力とは

2023年2月28日 10:12配信

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日本の伝統文化を色濃く継承する、華やかな大相撲の世界。力士たちは皆、なぜこの道を志し、日々土俵に向かっているのだろうか。本連載コラムでは、さまざまな人気力士たちにインタビューし、その素顔を探っていく。

新型コロナウイルスのガイドライン違反による1年間の出場停止期間中、最愛の祖父と父を亡くし、失意のどん底にいた朝乃山関。何が彼を奮い立たせたのか。「原点回帰」となった自身の相撲への向き合い方などについてお聞きした。

聞き手・文・撮影/飯塚さき

祖父・父の死を乗り越え原点回帰

――一昨年の5月、新型コロナウイルス対応ガイドライン違反で1年間の出場停止期間がありました。どう過ごしていましたか。

「その後の6月に祖父、8月に父を亡くしてしまって、本音は相撲を辞めたいなという気持ちに揺らいでいました。師匠と協会に許可を得て、葬儀のときに地元へ帰って母と話し合って。でも、僕の復帰戦を一番楽しみにしていたのは父でしたので、母の『辞めないでね』という言葉に心打たれました。そこから気持ちが変わって、相撲から逃げないと誓い、父は亡くなったけど母のためにもう一度親孝行したいと、こちらに帰ったときに師匠に挨拶しました。そして師匠から『もう一回頑張ろう』という言葉をいただいたんです。そこからは、出場はできなくても無心で稽古しようという気持ちで取り組んできました。もうひとつは、自分はなぜ大相撲界に入ったのかということ。それを1年間考えながらやってきました。自分一人の力ではなく、師匠、部屋のみんな、後援会やファンの皆さんの期待があったからこそここまで来られたので、それを強く考えてきました」

――なぜ角界に入ったか。その答えとは。

「大学まで相撲をやって、高校の恩師の浦山先生に高砂部屋を勧められて入門し、1年で新十両に上がりました。その頃に浦山先生が亡くなり、いただいた手紙には『富山のスーパースターになれ』と書いてありました。自分のなかでそれは横綱という意味だと思いましたので、入ったからには頂点を目指してやってきたんですが、不祥事で一気にどん底まで落ちました。だから、また考え直したんです。自分は、頂点を目指すために入ってきたんだなって。そういう気持ちで1年やってきました」

――ご自身の原点に立ち返る機会でもあったのですね。

「プラスに考えたら、自分のなかのいいきっかけにはなったかもしれないですね。入門したときの気持ちを忘れていたかもしれません。いまになってそれに気づかされました」

――こんなにつらい思いをされて、それでも戻ってきてくれた。本当に強い方だなと思います。その原動力は周りの支えであったとのこと。相撲そのものへの向き合い方の変化はありましたか。

「出場していたときは、富山出身力士のなかで一番上の番付でしたので、地元の人たちの応援もすごくうれしかった。不祥事を起こしたときは、その分期待を裏切ってしまったので、もう一回相撲に対する姿勢を見直し、心の底から応援してもらえる力士を目指したいと、あらためて考え直しました」

――2020年の取材でも、富山への恩返しをしたいとおっしゃっていましたね。

「地元の声援が一番力になります。一昨年は、離れる人も出てくるだろうし後援会もなくなると思っていましたが、各後援会の方から『関取になるまで見守っているからね』という言葉をいただきました。味方になってくれてすごくうれしかったので、富山の人たちはすごく感謝しています」

「早く上に上がりたい」三役復帰を目指す

――関取は現在28歳。体のケアなどで何か気をつけていることはありますか。

「どこも痛くなくても、週に3回はマッサージをしてもらっています。やっぱり朝起きたときに、回復が全然違うなと実感しました。大学の頃から、大阪場所では背中のカッピングもしています。こういったケアは、日頃の疲れをとるため、次の日にドッと疲れが来ないようにするために大事です」

――筋力トレーニングはされますか。

「昔はやっていましたが、相撲で使うトレーニングと器具を使うトレーニングはまた違うのかなと思うようになりました。相撲を取るトレーニングでは重いものも持たなくていいので。部屋に週1でトレーナーさんに来てもらってやっているんですが、重いものを持つとケガも怖いしそれこそ疲労が来てしまうので、軽い負荷で体を動かすようなことをやっていますね。自分のなかでは、柔らかい筋肉が硬くなると可動域が狭まったり、パフォーマンスに影響が出ると思うので、なるべく重いものはしないようにしています」

――サプリメントは活用していますか。

「稽古後にプロテイン、稽古中はBCAAを飲んでいます。これは自分で調べて始めました。あとは食後にビタミンD、C。食べ物の好き嫌いはないんですが、お相撲さんの食事って、全体的に茶色くて緑がないので(笑)、普段摂取できない栄養素を補うようにしています。いま、サプリってたくさん出ていますもんね」

――そうですね。ありがとうございます。では最後に、次の大阪場所と、2023年の目標はなんですか。

「僕は近大出身なので、大阪は準地元の場所。どの番付にいてもやるべきことは変わらないので、稽古に精進して、また応援されるような力士を目指していきたいです。今年1年の目標は三役昇進。去年の九州場所で、皆さんから『来年は三役で帰ってきてね』と言われましたので、それくらいの気持ちで上を目指して戻りたいです」

【プロフィール】

朝乃山広暉(あさのやま・ひろき)

1994年3月1日生まれ。富山県富山市出身。小学4年生からハンドボールと並行して相撲を始め、中学生から相撲部で本格的に取り組む。卒業後、富山商業高校に進学。3年時に選抜高校相撲十和田大会で準優勝。卒業後は近畿大学経営学部に進学。4年時、2015年の国体で団体優勝に貢献、成年の部で4位。全日本相撲選手権大会でベスト4の成績を収め、三段目付出資格を取得。高砂部屋への入門を発表し、翌16年3月場所で初土俵を踏む。1年後には新十両に、同9月場所で新入幕。19年5月場所、12勝3敗の成績で優勝、翌年3月場所で新大関に昇進。21年5月、新型コロナウイルス対応ガイドライン違反で1年間の出場停止も、22年7月場所で三段目から復帰。今年1月場所で関取に復帰し、十両優勝を果たした。身長188センチ、体重172キロ。得意は右四つ、寄り、上手投げ。

【著者プロフィール】

いいづか・さき

1989年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーランスのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)、『IRONMAN』(フィットネススポーツ)、Yahoo! ニュースなどで執筆中。

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