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インタビュー

朝乃山(前編):“元大関”のプレッシャーと戦った15日間 声援を背に十両優勝

2023年2月21日 10:30配信

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日本の伝統文化を色濃く継承する、華やかな大相撲の世界。力士たちは皆、なぜこの道を志し、日々土俵に向かっているのだろうか。本連載コラムでは、さまざまな人気力士たちにインタビューし、その素顔を探っていく。

本連載2度目の登場となるのは、多くのファンの期待に応えて土俵に戻ってきた朝乃山関だ。先の初場所でついに関取に復帰。元大関として「勝って当たり前」のプレッシャーのなか、見事に十両優勝を果たした。前編では初場所を振り返っていただく。

聞き手・文・撮影/飯塚さき

プレッシャーと戦った15日間

――十両復帰の初場所でした。場所前の調子はいかがでしたか。

朝乃山関(以下、「」のみ)「体も非常に動いていたのでいい感じでした。あとはしっかり気持ちを強くもって初日を迎えられたらと思っていました」

――実際に土俵に上がって、どうでしたか。

「15日間相撲を取るのは1年半ぶりだったので、15日間毎日緊張しましたし、新十両のときと関取衆の顔ぶれも違って若い力士が多かったので、非常に対戦が楽しみでした」

――元大関ということで、プレッシャーも大きかったのでは。

「自分のなかでそういう思いはありましたし、周りの皆さんからも勝って当たり前という目で見られるのがプレッシャーになりました。三段目から復帰しましたが、9月に幕下で最初に負けたときは、頭の中が真っ白になって、部屋に帰ってくるまで心の整理がつきませんでした」

――そのときはどう切り替えたのでしょうか。

「いろんな方から連絡をもらっていたんですが、一番は母からの言葉でした。6番相撲で負けたので、『あと一番あるからしっかり切り替えて』と。自分自身も、このままではあと一番勝てないと思いましたので、切り替えて次の相撲に集中しようと思いました。あとは、師匠にも言葉をいただいて。急いでバタバタしてしまった相撲だったので、『もっと落ち着いて。頑張ってね』と言ってもらいました。自分は体が大きいから、もっとどっしり構えて相撲を取りなさいというアドバイスでした」

――しかし、今回は14勝1敗で十両優勝でした。あらためておめでとうございます。印象的だったのはどんなことですか。

「大銀杏、化粧まわし、締め込みを久しぶりにつけられたことと、今場所から声援も解禁されましたので、土俵入りでも声援を送っていただいたことがとてもうれしかったです。初日からお客さんの数はすごかったですね。声援が久しぶりだから、初日は相撲が硬かったんです。受け身で、自分の相撲ではなく納得できていないんですが、2日目からは前に出る相撲を取る気持ちで徐々に慣れていけたと思います」

豪ノ山、狼雅 対戦して見えた課題

――先ほど、若い力士との対戦が楽しみだったとおっしゃっていました。実際に肌を合わせてみて、特に強いなと思った力士はどなたですか。

「豪ノ山関と狼雅関です。勝負には勝ったけど、対戦してみて強いなと肌で感じました。豪ノ山関は、親方が元大関・豪栄道関ですので、下から下からっていう押し相撲。僕も押し返す気持ちで行きましたが、最後はもろ差しで中に入られたのが僕の課題です。最後の小手投げは、思い切った小手投げだったので決まりましたが、中途半端だったら負けていたかもしれません。狼雅関は、そこまで無傷の5連勝でした。動画も見ていましたが、左前みつを取るのが僕より早かったし、幕下から上がったときより体が大きくなりましたね。まだ若いし楽しみな力士。一緒に上に上がって対戦したいです。僕より相撲はうまいですよ。金峰山関は、1敗同士の対決だったので意識はありました。あの身長で突き押し相撲。手が長いので相手は取りづらそうです。僕も物言いがつくくらい勝負は際どくて、最初は負けたと思いました。でも、花道でリプレイを見たら相手の手が先につくのが見えたので、よかったです。千秋楽の北青鵬関は、9月場所前に出稽古に来てくれて何十番もやりました。止まったら彼のほうが強いですね。上背があって、片手で相撲取っている感じなので、僕も寄りにくかったです」

――いろいろな方と対戦して見つかった課題もあるのですね。

「立ち合いの馬力がもっと必要です。自分は右四つという型があるので、相手からは簡単に右四つにさせないぞという気持ちが伝わってきましたし、特に押し相撲の関取にはなかなか組めなかったので、いかに自分の型になれるか。そこが課題でした」

一番印象的だったのはお客さんの「声援」

――取り口の研究はどうされていますか。

「事前に対戦相手が決まりますので、寝る前に次の日の相手の動画を見ます。ただ、見ると考え込むタイプなのであまり見たくはないんですが、今場所は何番か見ました。稽古場では、前に出る相撲を心がけています。前に出れば、自然と自分の右四つの形になれると思うので。強みを伸ばすことも、苦手を克服することもしないといけないですね」

――2020年にインタビューしたときは、白鵬関を参考にしているとおっしゃっていました。

「はい。いまも白鵬関の相撲はYouTubeで見ています。僕が高校生で本格的に相撲を始めた頃から横綱で、テレビを見ていても、強いな、カッコいいなと思っていましたから。参考にしているのは、四つに加えて立ち合いの低さ、速さ、当たる角度、上手の取り方。ひとつひとつが速いです。技術がずば抜けていると思います」

――いろいろな試行錯誤を経て土俵に立った今場所。あらためて、特に心に残ったのはどんなことですか。

「とにかく声援が解禁されたのが一番よかったんじゃないですかね。僕だけじゃなくて、力士一人一人にとって励みになったと思います。拍手だけのときと全然違いましたし、少しずつ昔に戻りつつあるのかなと実感しました。このままいつかはマスクも外して、お客さんも楽しんで声援を送っていただけるようになったら、力士もうれしいです」

(第48回・後編へ続く)

【プロフィール】

朝乃山広暉(あさのやま・ひろき)

1994年3月1日生まれ。富山県富山市出身。小学4年生からハンドボールと並行して相撲を始め、中学生から相撲部で本格的に取り組む。卒業後、富山商業高校に進学。3年時に選抜高校相撲十和田大会で準優勝。卒業後は近畿大学経営学部に進学。4年時、2015年の国体で団体優勝に貢献、成年の部で4位。全日本相撲選手権大会でベスト4の成績を収め、三段目付出資格を取得。高砂部屋への入門を発表し、翌16年3月場所で初土俵を踏む。1年後には新十両に、同9月場所で新入幕。19年5月場所、12勝3敗の成績で優勝、翌年3月場所で新大関に昇進。21年5月、新型コロナウイルス対応ガイドライン違反で1年間の出場停止も、22年7月場所で三段目から復帰。今年1月場所で関取に復帰し、十両優勝を果たした。身長188センチ、体重172キロ。得意は右四つ、寄り、上手投げ。

【著者プロフィール】

いいづか・さき

1989年12月3日生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーランスのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)、『IRONMAN』(フィットネススポーツ)、Yahoo!ニュースなどで執筆中。

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