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インタビュー

伯桜鵬(後編):嫌々始めた相撲 名門・鳥取城北高校でつけた力

2023年6月28日 11:35配信

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日本の伝統文化を色濃く継承する、華やかな大相撲の世界。力士たちは皆、なぜこの道を志し、日々土俵に向かっているのだろうか。本連載コラムでは、さまざまな人気力士たちにインタビューし、その素顔を探っていく。

わずかデビュー半年で新入幕を決めた、落合改め伯桜鵬関のインタビュー後編。19歳の若き関取に、相撲を始めたきっかけや、名門・鳥取城北高校での日々を振り返っていただくと共に、今後の将来についても青写真を描いていただいた。

聞き手・文・撮影/飯塚さき

嫌々始めた相撲 小学4年生で味わった恐怖

――相撲を始めたきっかけはなんでしたか。

伯桜鵬関(以下、「」のみ)「話せば長くなるんですが、自分は男3兄弟の末っ子で、兄2人の影響で自分もサッカーをしていました。父は学生の頃柔道をしていて、どうしても誰かに格闘技をやらせたかった。それで、地元・鳥取県倉吉市の同じ小学校の大スター・横綱琴櫻を称える「桜ずもう」という大会には、兄弟3人で毎年出ていました。4年生から出られる個人戦に出たとき、たまたま優勝してしまって、8月の国技館で行われる全国大会に出ることになりました。相撲は好きだったけど、怖いから練習はしたくない。でも全国には強い子が出てくるから、4~8月の4ヶ月だけは練習しようということになり、後に自分が行くことになる(鳥取城北)高校に、車で片道1時間くらいかけて送ってもらって練習していました」

――最初は嫌々だったんですね。

「もう頼むからやめさせてくれって父に言い続けたんですけど、どうしてもやめさせてくれなくて。6月くらいに、同い年の全日本チャンピオンが三重県から鳥取に合宿に来ることになりました。僕はまだ四股も踏めないような状態。でも、クラスではガキ大将みたいな感じだったから『明日、日本一の子が来るから倒してくるわ』なんて強がっていました。いざ会ってみたら、本当にでかくて見ただけで震え上がって、ぶつかった瞬間に壁まで吹っ飛ばされたんです。それで、親も先生もほかの高校生たちも見ているなか、稽古場の校庭に出る扉から走って逃げたんですよ(笑)。当時、高校のグラウンドに野球部の室内練習場があって、その中で泣きながら隠れていました。そうしたら、卒業後鳥取県体育協会に残っていた逸ノ城関が走って追いかけてきて、声をかけてくれて一緒に稽古場まで戻りました。その日はされるがままにボコボコにされて、帰りの車で泣きながら相撲はやめさせてくれって父に頼んだけど、ダメだって言われて」

――小学4年生にして怖い経験をしたんですね…。

「次の日学校で友達が『日本一の子どうだった』と聞きに来たとき、つい『たいしたことなかった』なんて嘘をついたんです。その日の夜、食卓でいつもなら一番しゃべる僕が落ち込んでいたから、親にどうしたのと聞かれて、嘘をついてしまったことを正直に泣きながら話しました。すると父が笑いながら『このままサッカーやってたらただの嘘つきなんだから、じゃあもう相撲せんといかんなあ』って、相撲をせざるを得ない状況を作られちゃったんです。そこから本格的に始まりました。当然やりたくないし、毎日泣きながらやめたいって言っていたけど、翌年5年生のときの大阪の全国大会で、そのチャンピオンを倒したんです。そのとき、勝てなくて怖かった相手に勝ったことで、心から相撲をやりたいって完璧に思いました。そこからずっと相撲が大好きだし、やめたいと思ったことはないです。あのとき父に無理にでもやらされてよかったなと思っています」

名門・鳥取城北高校で力をつけた

――ただ、相撲を見るのは昔から好きだったそうですね。ご家族の影響ですか。

「はい、祖父母が大好きで、小さいときから3人でよく大相撲をテレビで見ていました。演歌や時代劇が好きになったのも、祖父母の影響です」

――そして、そのまま高校は鳥取城北へ。どんな3年間でしたか。

「この高校3年間の経験がとても大きかったと思っています。同級生や先輩後輩、先生にも恵まれて、相撲漬けの3年間があるからいまも頑張れているのかなと。土俵は2面。空調やトレーニング機器など施設・環境面でも素晴らしい学校です。3年間は寮に住んでいました。1階が「ちゃんこ石浦」というお店で、2階が寮になっています。ちゃんこ石浦もめちゃくちゃおいしいんです。職人さんたちがみんな城北相撲部OBで、何かしらのお祝いのときには、みんなでお店でパーティーもしました。ベースは塩ちゃんこ。おすすめは手羽先です」

――素晴らしい環境で稽古を積み、卒業後は右肩の手術とリハビリのために1年費やしました。

「最初は、先生と親に手術しないって言ってたんです。その1年がもったいないというか、周りから置いていかれてしまうような気がして。だから、早く入らせてくださいってお願いしていたけど、焦らないでしっかり治せと言われて、手術することにしました。でも、いま思ったらあのとき手術してよかったです。もし自分のわがままを押し通して入っていたら、いま頃休場していると思います」

19歳の青年一面「ナルニア国物語が好き」

――好きな食べ物はなんですか。食事で気をつけているのはどんなことでしょうか。

「好きなものは基本的に肉、嫌いなものは貝類です。いまは量を無理に食べることはなく、どちらかといえばキープしないといけないので、場所が近くなったら絞ります。そのほうが動けるので。場所中は154キロ、いまは160キロ近いと思います」

――音楽は演歌が好きだとおっしゃいましたが、好きな映画はありますか。

「動物が好きで、特に『ナルニア国物語』は半端ないくらい好き。次のセリフまでもう頭に入っているくらいなのに、何回見ても飽きないんですよ。3シリーズあって、全部10回以上見ています(笑)」

――そう言われるともう一回ちゃんと見てみたいなと思いますね(笑)。19歳らしい普段の一面もありつつ、土俵では「令和の怪物」とも称されていますが、それに関してはどうお感じですか。

「まずはうれしいしありがたいです。そう言われているから頑張らないといけないという思いもなくて、自分がやるべきことを一日一日やってきた結果が伴ってきて、そう言ってもらえるのはありがたいなと思っています。プレッシャーはまったくないです」

――新入幕となる来場所。目標をお聞かせください。

「デビューしたときと変わらない気持ちなんですが、15日間相手の研究をして、その日一日やるべきことをやること。その結果が千秋楽についてくると思うので、まずはやるべきことをやるのが目標です」

――長い土俵人生が今後待っています。どんな力士になっていきたいですか。

「ありきたりですが、土俵上では闘志むき出しで強くて、土俵を下りたらみんなにかわいがってもらえて愛される、そんなお相撲さんになりたいです」

【プロフィール】

伯桜鵬哲也(はくおうほう・てつや)

2003年8月22日生まれ。鳥取県倉吉市出身。小学4年生から相撲を始め、高校は地元の強豪・鳥取城北高校へ進学。2年次、3年次の高校総体で高校横綱のタイトルを獲得。3年次には全日本選手権でベスト8。卒業後は、肩の治療のためプロ入りは見送るも、実業団横綱を獲得。幕下15枚目格付出の資格を得て、宮城野部屋に入門した。今年初場所でデビューし、いきなり7戦全勝。史上初の1場所での新十両昇進を決めた。先の5月場所では14勝1敗の好成績で、来場所の新入幕を果たす。身長181センチ、体重162キロ。得意は突き、押し、左四つ、寄り。

【著者プロフィール】

いいづか・さき

1989年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーランスのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)、『IRONMAN』(フィットネススポーツ)、Yahoo! ニュースなどで執筆中。

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