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インタビュー

照ノ富士(後編):相撲との出会いと来場所の目標を語る

2020年9月7日 12:20配信

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日本の伝統文化を色濃く継承する、華やかな大相撲の世界。力士たちは皆、なぜこの道を志し、日々土俵に向かっているのだろうか。本連載コラムでは、さまざまな人気力士たちにインタビューし、その素顔を探っていく。

7月場所で、感動を呼ぶ復活優勝を遂げた照ノ富士関。モンゴルからの相撲留学を経て角界入りした彼は、相撲のどこに惹かれたのか。その原点を辿る。

(聞き手・文・撮影=飯塚さき)

高校3年生で相撲留学その頃の苦労が基礎に

――照ノ富士関が、相撲に興味をもったのはどんなきっかけからですか。

照ノ富士関(以下、「」のみ)「魁皇さんの相撲が好きだったからです。魁皇さんからは、優しくて力持ちのイメージが見て取れたので好きでした。あと、当時からモンゴル人力士たちも頑張っていましたから、憧れでもありました」

――モンゴルにいた頃、相撲以外のスポーツ経験はありますか。

「日本に来る前に柔道を1年間やっていました。でも、それ以外はないです」

――実際に、相撲を始めたきっかけはなんだったのでしょうか。

「私は、横綱・白鵬関のお父さんとのご縁があって、横綱が鳥取城北高校を紹介してくれたのと、そこからさらに相撲部屋を紹介していただいたので、角界入りが叶いました」

――高校3年生のときに来日、編入していますが、名門といわれる鳥取城北高校相撲部での日々はいかがでしたか。

「やっぱりきつかったですよ。右も左もわからない、日本語もわからない状態で来ていますからね。当時はきつい思いしかなかったけど、それを乗り越えたからこそ、いまでも困難に耐えられているのかなと思います」

モンゴル出身力士が思う相撲の魅力とは

――大相撲の土俵に立つ側として、照ノ富士関が思う相撲の魅力とはどんなところにありますか。

「裸と裸でぶつかって、武器も使わずに戦うことじゃないかなと思います。それと、やっぱり勝ち負けの世界なので、勝ったときの楽しさ、うれしさは魅力ですね。あと、自分はケガと病気をして、いろいろ大変な時期があったけど、そういうことがあったからこそ、無事に相撲を取れる喜びを感じています」

――その言葉は非常に重いものを感じさせます。逆に、見る視点に立つと、相撲はどんなところが面白いと思いますか。

「いま相撲を見ていてすでに楽しいと思っている人は、その人それぞれに楽しいポイントを知って見ていると思うので、それでいいんだと思います。楽しくない人にとっては、何をいくら言っても楽しくないんです。無理して見る必要はないし、好きな人が好きなところを見ればいいんじゃないかなって思います。ただ、生で見るからこそ感じることもあるので、テレビで見ていてもわからないことはあるんじゃないでしょうか。自分はファンとして生で相撲を“観戦”はしたことがないですから、申し訳ないんですけれどそのへんの魅力はうまく自分の口から伝えることができません」

――いえいえ、まさにその通りだと思います。では、照ノ富士関が思う母国・モンゴルのいいところはどんなところですか。

「行ってみると感じることがたくさんあると思いますので、ぜひ一度行ってみてください。自分にとっては地元なので、安心できる場所ですね」

――では逆に、日本に来てどんなところに違いを感じましたか。

「文化の違いを感じる場面はいろいろありますが、日本の文化そのものを映しているのが、まさに相撲だなと思いました」

遠い未来ではなく目の前のやるべきことに集中する

――2週間遅れて開催された7月場所から、あっという間に次の9月場所がやってきます。現在、場所に向けた調整をされていることと思いますが、いかがですか。

「毎日できることをやって臨むだけ。特に何か変わったことをしようというのはなく、やるべきことを人よりちょっと多めにやっているだけです。大関時代と比べたら、稽古量はそこまでできていないけれど、自分の体と相談して付き合いながら、やれることをやっています」

――では、来場所の目標と、今後の夢や目標を教えてください。

「まずは、一場所一場所集中して、汗を流し、できるだけの準備をして場所に入ること。遠い目標・近い目標ということでなく、今日の一番を、一つずつ考えています」

――とにかく目の前のやるべきことに集中する。これが関取のスタイルですね。

「はい。『明日やります』というのは嘘になりますから。今日できることは今日のうちにやる。これが、私の基本的な考え方です」

★付け人・桜富士さんから見る照ノ富士関★

とにかく関取はストイックです。相撲に対する姿勢、勝ちにこだわる姿は、まさに勝負師。優勝した7月場所も、最初から「優勝する」とおっしゃっていましたし、自分も初日から関取が優勝すると信じてついていました。でも、関取は優勝を意識せず、冷静に一番一番こなしていたので、後半はむしろ付け人の自分のほうが意識してしまっていましたね。

普段の関取は、稽古場では厳しく、それ以外は冗談も言う優しい方です。トレーニングやサプリメントに関しての知識は、自分は全部関取に教えていただきました。プロテインなどのサプリメントも、僕のためにすべて注文してそろえてくださったんです。これからも近くで関取の相撲を見て、アドバイスいただきながら精進していきたいと思います。

【プロフィール】

照ノ富士春雄(てるのふじ・はるお)

1991年11月29日生まれ。モンゴル・ウランバートル市出身。17歳から1年間、柔道に取り組み、18歳になる2009年に日本での相撲留学を決意。鳥取城北高校に編入し、高校3年次の全国高等学校総合体育大会相撲競技で、団体メンバーの一人として優勝に貢献した。10年に間垣部屋に入門、初土俵は翌5月の技量審査場所となった。13年3月場所限りで間垣部屋が閉鎖されると、伊勢ヶ濱部屋に移籍。その2場所後には新十両に昇進が決定。その後も順調に番付を上げ、15年5月場所で初優勝を果たし、大関に昇進した。しかし、膝のケガと複数の内臓疾患に見舞われ、18年7月幕下に陥落。その後序二段まで番付を下げる。19年3月から土俵に復帰。2年半ぶりの再入幕となった先の7月場所では、見事2度目の優勝を手にした。身長192cm、体重178kg。得意は右四つ、寄り。

【著者プロフィール】

飯塚さき(いいづか・さき)

1989年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーランスのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(報知新聞社)、『IRONMAN』(フィットネススポーツ)、Number Web(文藝春秋)、Yahoo! Japanなどで執筆中。

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