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インタビュー

正代(前編):三度目の正直で手にした賜杯 強さの秘密に迫る

2020年10月30日 10:23配信

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日本の伝統文化を色濃く継承する、華やかな大相撲の世界。力士たちは皆、なぜこの道を志し、日々土俵に向かっているのだろうか。本連載コラムでは、さまざまな人気力士たちにインタビューし、その素顔を探っていく。

両横綱不在で混戦となった9月場所。最後に土俵を制したのは、時津風部屋の正代関だった。悲願の初優勝とともに新大関となった正代関。電話でインタビューし、先場所を振り返っていただいた。

(聞き手・文・撮影=飯塚さき)

前に出る相撲で念願の初優勝

――まずは、9月場所での初優勝と大関への昇進、本当におめでとうございます。

正代関(以下、「」のみ)「ありがとうございます」

――横綱不在のなか、日に日に「優勝」の二文字が現実として見えてきていたかと思いますが、どのあたりで意識してきましたか。

「意識はしないように、あえて考えないようにしていました。でも、十四日目で朝乃山関を倒してから、明日の千秋楽で勝てば優勝なんだと思ったときに、自然に緊張感が出てきましたね」

――気持ちを落ち着けるために、ゲン担ぎなど何かしたことはありますか。

「ゲン担ぎかどうかはわからないんですけど、部屋から国技館までが近く、いつも歩いて向かっているので、それだけは毎日続けました。毎日同じように過ごすことで好成績を残していたので、千秋楽も特別なことをせず、いつも通りにいようと思っていました」

――15日間を通して、本当にいい内容の相撲が多かったですね。ご自身ではその勝因をどのように分析していますか。

「全体的に、前に出る相撲が増えたのがよかったのかなと思います。立ち合いは強く当たって、圧力をかけるように心がけていました。当たるタイミングがよかったのと、その後の2歩目がしっかり前へ出ることも、勝ちにつながっていたと思います」

――千秋楽の翔猿戦では、前日まで考えていたことが土俵上で真っ白になってしまった、などと場所後にお話ししていましたね。具体的に、考えていたのはどんな作戦だったのでしょうか。

「立ち合いから攻めて、とにかく先手を取るつもりで臨んだんですが、立ち合いで当たるときというか、仕切り線に手をついた瞬間に、相手の立ち合い変化があるかもしれないと思って、考えていたことが飛んでしまったんです。もう当たるのが怖くなってしまって、思い切り当たりにいけませんでした」

――翔猿の立ち合い変化は、私も正直選択肢として大いにあり得ると思って見ていました。しかし、実際は真っすぐぶつかってきて、最初は土俵際まで追い込まれましたよね。それでも、正代関は冷静に動いて対処しているように見受けられましたが、取っていて実際いかがでしたか。

「その時々の反応で取っていた感じです。立ち合いで攻め込まれた後はよく残れたなと思いますし、相手の動きも見えてはいたんですが、とにかく焦っていました。ずっと焦っていて、変に組みにいっている場面もあったんです」

――それでも、よくしのいで、最後は土俵際での突き落としが決まりました。勝った瞬間はどんな心境でしたか。

「勝ってすぐは、“優勝だ!”という感じではなく、どちらかというと最後の一番をやり切った達成感があふれていました。緊張もあって、とにかくホッとした感じです。うれしい気持ちよりも、緊張から解放された安堵のほうが大きかったです」

緊張を乗り越えたのは「経験」から

――これまで二度の優勝争いを経験し、三度目の正直で、今回は賜杯を手にしました。過去の2回と比べて、今回はどのようにプレッシャーに打ち克ったのでしょうか。

「プレッシャーに打ち克てたかどうかは、今もわかりません。緊張はどうしてもしてしまいます。緊張するけれど、同じようなことを経験しているかどうかが大きかったのかなと思っています。一度でも大一番を経験していれば、体の動きが変わるので、同じように緊張しているなかでも今回は力が出せました。二度の経験が自信につながったし、緊張感との付き合い方や気持ちのもっていき方がわかったんです」

――緊張感にも徐々に慣れてきたんですね。

「慣れるほどかどうかはわからないけど、そんな気がします。いろいろ考えたって結果が変わるわけではないと思って、前を向けました。それは、経験からきたものです。これからも緊張することはあると思うので、いつも通りの相撲が取れるようになりたいと思います」

――普段、取り口の研究などはされているんですか。

「いいイメージをつけるために、自分の勝った相撲を見ることはたまにありますが、映像での研究はほとんどしていません。それよりも、実践の稽古場でパワーアップを図っています。最近は、土俵周りでのウエイトトレーニングが増えました。四つ相撲になることが多いので、ダンベルを使った腕と肩回りのトレーニングや、立ち合いの勢いと圧力強くするために、瞬発系や下半身のトレーニングをしています」

――トレーニングは、専門のトレーナーさんに見ていただくんですか。

「いえ、自分で、ネットで調べたり、YouTubeの解説動画を見たりしています。トレーニングだけじゃなくて、サプリメントに関しても、YouTubeで動画を見たり、トレーニングに詳しい部屋の若い衆にアドバイスをもらったりして、プロテインやビタミン、EAAなんかを飲んでいます」

――現在、ご自身で克服したいと考えている課題はどんなところにありますか。

「とにかく腰が高い相撲が目立つので、そこを克服したいです。それには、とにかく稽古での実践とトレーニングが必要だと思っています」

“正代弁当”には卵焼きとから揚げ?

――これまでの土俵人生で、印象に残る取組や場所はありますか。

「初めて優勝してしまったので、どうしても一番は先場所になってしまいますね。それ以外では、十両を決めた相撲など、節目の取組はよく覚えています」

――小さい頃に憧れていた力士や、対戦してみたい過去の力士はいますか。

「大相撲をちゃんと見たのが大学生からなので、憧れの力士はいません。今も、昔の相撲を見る機会はありますが、この人はこういう相撲なんだなあと思うだけで、取りたいとは思わないです。逆に、こんな相撲を取ってみたいなと思うことはありますけど、すでに自分の型ができあがっているので、想像したことがありません」

――現在は、新型コロナウイルスの影響で売店も縮小して販売していませんが、本来であれば、大関になると自分の名前の弁当が販売されます。通常開催に戻ったときの「正代弁当」には、どんなおかずを入れたいですか。

「そんなのがあるんですか! 知りませんでした。自分の好きなものを入れていいなら、甘めの卵焼きとから揚げ。お弁当といわれて真っ先に思いつくのはその二つですね。自分の名前がついたお弁当、作ってもらえるようにこれからも頑張ります」

【プロフィール】

正代直也(しょうだい・なおや)

1991年11月5日生まれ。熊本県宇土市出身。小学1年生のときに、近所の宇土少年相撲クラブの監督にスカウトされ、相撲を始める。中学生で全中の団体優勝メンバーとなり、熊本農業高校3年生では国体相撲少年の部で優勝。東京農業大学に進学し、2年時に学生横綱となる。4年生で角界入りを決意し、時津風部屋に入門。2014年3月場所で初土俵を踏む。翌年9月場所で新十両、さらに翌年1月場所で新入幕と順調に番付を上げていき、2017年1月場所で新三役。今年、2020年の7月場所で、自身初となる三役での二桁勝利を挙げ、翌9月場所で悲願の初優勝。大関への昇進が決まった。身長184cm、体重165kg。得意は右四つ、もろ差し、寄り。

【著者プロフィール】

飯塚さき(いいづか・さき)

1989年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーランスのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(報知新聞社)、『IRONMAN』(フィットネススポーツ)、Number Web(文藝春秋)、Yahoo! ニュースなどで執筆中。

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