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インタビュー

碧山(前編):恐れずに前へ 先場所の快進撃の裏側

2021年4月23日 12:49配信

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日本の伝統文化を色濃く継承する、華やかな大相撲の世界。力士たちは皆、なぜこの道を志し、日々土俵に向かっているのだろうか。本連載コラムでは、さまざまな人気力士たちにインタビューし、その素顔を探っていく。

3月場所を終え、今回お話を伺ったのは、最後まで優勝争いに残って敢闘賞を受賞した、春日野部屋の碧山関。現在34歳。先場所の快進撃の裏側や、相撲の取り口などについて、電話でインタビューを行った。

(聞き手・文・撮影=飯塚さき)

好調の春場所「巴戦やりたかった」

――春場所では、11勝4敗の成績で敢闘賞を受賞された碧山関です。おめでとうございます。

碧山関(以下、「」のみ)「ありがとうございます。こんな成績になるとは思っていなかったんですけど、非常に体が動いていたし、いい相撲が取れたと思います」

――後半戦は7連勝しました。

「疲れもあったんですが、体をうまいこと休められました。勝ち越して安心したから、あとの3番は落ち着いた気持ちで、自分のいいところが出せたなと思います」

――千秋楽は、序盤から好調で、これまでの対戦成績が11-11と五分だった高安関との対戦で、見事勝利しました。

「高安関は、番付も違うので序盤は当たらないと思っていました。でも、対戦は何度もあったから、いつも通りに取ろうと思えたのでよかったです」

――勝てば敢闘賞という一番でもありました。緊張はありましたか。

「私は敢闘賞のことは知らなくて、支度部屋で付け人から聞いて知ったんです。話の流れで『三賞誰がもらうのかな』と言ったら、付け人が『言っていいですか』って言うから、いいよと言ったら『碧山関、もし今日勝ったら三賞もらえます』と言われて。おおーわかったと言って、勝ちました。付け人はどこから聞いたんだか知らないけどね。いつも誰とでも緊張していますが、土俵に上がったら落ち着いていました。今場所は全体的に落ち着いていられたなと思います」

――序盤も連勝スタートでしたね。

「初日から体がいい感じに動いていてよかったんですが、6日目からは3連敗してしまって。親方に『考えすぎないように、自分でやっていることを信じて出し切ったほうがいい』と言われ、それで落ち着いて一番勝てて、そこから流れが来て7連勝できました。親方の言葉は本当に大事。毎日稽古中に一人一人にアドバイスをくれています。それで気持ちが晴れるというか、一人じゃないという気持ちになれます」

――今場所は特に、どんなところがよかったなと思いますか。

「引いてしまう悪い癖がほとんどなく、前に攻める相撲が多かったのがよかったと思います。絶対引かないで、稽古場でやっていることを出そうと意識しました。たまにそれができないときもあるけど、今回はうまいことできた。気持ちの面も、ただ“勝ちたい”ばかりじゃなくて、ちゃんと目の前の相撲を取らないといけないと思いました」

――素晴らしい成績と内容でしたが、最後の優勝争いに残りたかったのでは。

「相撲を取る前は、優勝争いのことはあまり気にしなかった。『勝たないと意味がないよ』と親方にも言われたし、まず自分が勝たないと話にならないからね。勝って、貴景勝と照ノ富士の相撲を見て、もし照ノ富士が負けたら巴戦になるなと思っていたんですが、残念でした。その一番は支度部屋で見ていました。一応、頭(髷)を直してもらって準備していたので、もう一回相撲を取りたかった。これからこんなチャンスはあるのかなと思っているけど、次あったらつかみにいきます」

小兵は苦手 怖がらずに前に出ることで克服

――碧山関は、相撲を取る際はいつもどんなことを心がけていますか。

「とにかく前に出ること。立ち合いは、ぶちかましも、四つで当たって組んでも、もろ手で突っ張ってもいけるから、その日の対戦相手によって、考えてから当たっています。例えば、小さい人に頭で行っても立ち合いが合わないし、相手に逃げられたら前に落ちちゃうので、考えながら相撲を取っています」

――苦手なのはどんなタイプの力士ですか。

「小さくて、逃げてくる人はあまり得意じゃない。逃げられて慌てて前に出ていくと、土俵際で突き落とされることもあるからです。相手が正面にいれば全然大丈夫だけど、小さい人は動きも早くて捕まえにくいし、押しても逃げられるからあまり好きじゃないです。大きいお相撲さんのほうが、バーンと当たって取りやすい」

――でも、今場所は小さい人にたくさん勝ちました。苦手をクリアできた理由はなんでしょうか。

「怖がらずに前に出ていたからだと思います。相手に何もさせなかった。こっちが見ちゃうと相手の流れになってしまうけど、今場所は迷いがなかったし、逆に迷いがあった日は負けました」

――普段、対戦相手の研究はしていますか。

「稽古場でイメージを作って、支度部屋でのアップで付け人に当たって準備しています。ビデオは見ないけど、もう10年になりますから、対戦するみんなのことは、誰がどんな相撲を取るってほとんど知っているんです。まわしを取って強い人にはまわし取らせないようにするとか、動きの速い人は正面に置いて逃げられないようにするとか、意識しながら落ち着いて取っています。逆に、自分の相撲はたまに見ます。負けて自分にむかついたとき、どこが悪かったかと反省するときです。負けても勉強ですね。でも、勝った相撲も、また次も頑張ろうと気持ちが盛り上がるから、見るときもあります」

コロナ禍での支度部屋の様子

――いま、体重はどれくらいですか。

「今場所は185キロで取っていました。コロナ前は195キロだったけど、ダイエットとかではなく、稽古してご飯もちゃんと食べているけど、普通に10キロ落ちたんです。少し軽くなったことでケガもしにくいし、体は動きやすい。いま、一番いいんじゃないかなと思います」

――コロナ禍になって1年以上経ちますが、場所中の支度部屋はどんな様子ですか。

「基本的に誰とも話せないし、支度部屋に入ったら終わるまで外に出られません。千秋楽だけは、三賞のトロフィーをもらうために西から東の支度部屋に行ったんですが、もうみんな帰って誰もいませんでした。記者さんもテレワークでいません。支度部屋では、力士の間にアクリル板を立ててスペースを作っています。隣の人とも距離を取っている感じです。あと、みんなずっとマスクをつけているから、苦しい。特に、アップのときは、すごく息が上がるので、だいぶ大変です。でも、何があるかわからないからね。マスクはいっぱいあるから、汗をかいたらすぐ取り替えています。1時間ごとに担当の親方が来て、窓を開けて換気もしてくれています。初場所は少し寒かったけど、慣れました。逆に、これから夏はずっと開けっぱなしでいてほしいです。風が気持ちいいですからね」

(第26回・後編へ続く)

【プロフィール】

碧山亘右(あおいやま・こうすけ)

1986年6月19日生まれ。ブルガリア・ヤンボル出身。11歳から地元でレスリングを始め、高校卒業後にはアマチュア相撲を1年ほど経験。2007年、同じくブルガリア出身の琴欧州(現・鳴戸親方)にスカウトされたことをきっかけに、2009年7月場所で初土俵を踏む。2011年7月場所で新十両。十両をわずか2場所で通過し、新入幕となった同年11月場所で敢闘賞を受賞。先の3月場所では、最後まで優勝争いに加わり、敢闘賞を受賞。これまで三賞は敢闘賞4回、技能賞1回。身長191cm、体重185kg。得意は右四つ・寄り。

【著者プロフィール】

飯塚 さき(いいづか・さき)

1989年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーランスのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(報知新聞社)、『IRONMAN』(フィットネススポーツ)、Number Web(文藝春秋)、Yahoo!ニュースなどで執筆中。

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