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インタビュー

翠富士(前編):新入幕で勝ち越し、三賞受賞 安治川親方の言葉

2021年2月11日 13:35配信

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日本の伝統文化を色濃く継承する、華やかな大相撲の世界。力士たちは皆、なぜこの道を志し、日々土俵に向かっているのだろうか。本連載コラムでは、さまざまな人気力士たちにインタビューし、その素顔を探っていく。

今回お話を聞いたのは、令和3年最初の場所で新入幕を迎え、見事技能賞を獲得した翠富士関。小さな体ながらまっすぐぶつかっていく気持ちのいい相撲で、連日土俵を沸かせた。メモリアルな初場所について振り返っていただく。

(聞き手・文・撮影=飯塚さき)

気持ちを奮い立たせてくれた安治川親方の言葉

――新入幕で迎えた先の初場所では、9勝6敗と見事勝ち越し、技能賞も獲得した翠富士関です。本当におめでとうございます。直前に緊急事態宣言が出されたなかでの開催でしたが、そのあたりはいかがでしたか。

翠富士関(以下、「」のみ)「コロナウイルス関連で、4部屋が全員休場だったので、正直中止にしてもいいんじゃないかと自分は思っていました。でも、やるからには頑張ろうという気持ちでしたし、始まったら毎日緊張していました。十両のときより、相手の体が一回り大きく感じました」

――でも、初日から3連勝でしたよ。

「はい。行けるんじゃないかなと思いましたが、そんなにうまくはいかなかったですね。通用するかもと思い始めていたところで2連敗してしまったので、やっぱり甘くないなと思い知らされました」

――その後は2連勝、次に3連敗…という星の流れでした。

「自分は基本的に、勝ったらめちゃくちゃはしゃいで、負けたらめちゃくちゃ落ち込んでいるので、情緒不安定みたいになっていました。ほかのお相撲さんは、負けても切り替えていてすごいなと思いますが、自分はもう病んでいる子になっていますね(苦笑)」

――10日目を終えて5勝5敗でした。気持ち的にもこのあたり苦しかったのではないかと思いますが、その後3連勝して勝ち越しを決めました。

「序盤は白星が先行していましたが、10日目で星が並んでしまって、落ち込みすぎて稽古場に行けないくらいだったんです。そしたら、部屋付きの安治川親方(元安美錦)から『お前今日稽古場来なかっただろう』とLINEで怒られて。でも、会ったときに『まあ俺は新入幕のとき三賞取ったけどな』と、いじりの激励をいただいて、頑張ろうと思えました」

――安治川親方! そんなやりとりがあったんですね。

「自分はちょっとMな部分があるので(笑)、そういうのはありがたかったです」

――ベテランで実力者の妙義龍関に勝っての勝ち越し。自信になったのではないでしょうか。

「そうですね。昔からテレビで見ている方だったので、本当にうれしかったです」

伊勢ヶ濱部屋での充実の稽古

――翠富士関は、基本的に相手よりも自分のほうが小さいのに、真正面からぶつかっていく気持ちのいい相撲を連日取られていました。

「いや、ただ単に横に動けないだけです(笑)。昔から相手の正面に向かっていくので『相撲が大きい』といわれてきましたが、意図的ではなくてそうなっちゃうんですよね」

――でも、いまや代名詞ともなりつつある肩透かしのキレが素晴らしいです。ご自身では狙っているんですか。

「狙って打つときもあれば、流れのなかで決まるものもあります。相手が食いそうだなと思うときは、思い切って打ちます」

――翠富士関は、照ノ富士関、宝富士関、照強関といった関取のいる伊勢ヶ濱部屋の所属です。稽古もかなり充実しているのではないでしょうか。

「場所の2週間前になってから相撲を取り始める部屋もあるんですが、うちの部屋は場所休み明けすぐから毎日40分の申し合い(実践稽古)をやってきたので、稽古量はほかの部屋よりも自信があります」

――ぶつかりや申し合いといった稽古以外にも何かしていますか。

「安治川親方に言われて、稽古前のトレーニングをかなりしています。腕立て1000回とか、その日ひとつのことをひたすら繰り返してやるんです。トレーニングをすると強くなるから、無心でやれと。体も大きくなってきているので、それが力になっていることは感じています」

――そういった努力が実っての勝ち越しと三賞受賞。本当におめでとうございます。三賞のなかでも、相撲のうまさが評価される技能賞ということで、喜びもひとしおなのでは?

「本当にうれしいです。まさか技能賞をもらえるとは思っていなかったですね」

課題は前に出て押し切る力

――これはひとつお聞きしたかったのですが、十四日目の霧馬山戦は、行司がまわしを締め直す「まわし待った」が入り、トータルで4分近い大相撲になりました。結果的に負けてしまいましたが、この取組は振り返ってみていかがですか。

「まず、師匠にめっちゃ怒られました。とにかくもっと自分から攻めろということ。逸ノ城関戦(10日目)も同じように怒られたんですが、親方に怒られるときには『先につながらない相撲だ』と言われます。前に出ていれば、負けても先につながるけれど、前に出ない相撲は先につながらないからダメだと」

――まわし待ったになったときは、ずいぶんと苦しそうに見えました。

「多分、これまででまわし待ったなんて初めてだったと思うんですけど、本当に苦しかったです。頭が入って喉がつっかえて息ができなくなってしまって、本当は動いちゃいけないのに体が動いちゃいました。苦しかったからこそ、勝ちたかったですね」

――しかし、次の千秋楽は翔猿関に見事得意の肩透かしで勝って、技能賞獲得を決めました。

「三賞がかかっているのは、その日のお昼頃に聞いて、いつも以上にプレッシャーがかかりましたが、いままでも3勝3敗とか7勝7敗のときの千秋楽は負けたことがないので、『こういうとき俺強いからな』とふざけて言っていました。でも、本当に勝てたときはめっちゃうれしかったです」

――今場所を通して、見えた課題はありますか。

「今回、決まり手は押し出しが1回しかなくて、押し切る力がないと思いました。押し切れないからこそ肩透かしになっている部分もあるので、理想は立ち合いで当たってそのまま持っていくことです」

――普段、相撲の研究はどうされていますか。

「相手の相撲をたくさん見て、相手によって作戦を立てています。対戦相手が決まったら、その日はその人の過去の相撲をずっと見て研究するんです。過去の取組動画が見られる日本相撲協会の公式アプリを活用しています。相手がどう来るか、3種類くらいは想定して、作戦を立てます。その3種類が外れたときはだいたい自分は負けています(笑)。小兵は立ち合い命なので、失敗すると厳しいです」

――ご自分の技術はどう磨いていますか。

「トレーニングを含め、いつも通りのことをずっとやっているだけですね。安治川親方からは、いままでの相撲が全部入っているDVDをもらったので全部見たし、一通り真似もしてみたんですが、やっぱり小さいながらにスタイルは人それぞれ違うので、覚えられませんでした」

――安治川親方の相撲を全部見たんですね。

「はい。もともと相撲を見るのは好きなので、普段からよく見ます。ただ、自分の相撲のスタイルや取り方に関しては、高校生の頃までで、ある程度出来上がってしまったので、安治川親方やほかの力士のいいところをいいなと思って取り入れて稽古で実践してみても、意外と合わないことがあるんです。やってみてもできないこともありますし、センスがないのかもしれないです(笑)。だから、相手の研究をすることと、あとは体づくりに励むことかなと思っています」

(第23回・後編へ続く)

【プロフィール】

翠富士 一成(みどりふじ・かずなり)

1996年8月30日生まれ。静岡県焼津市出身。小学2年生のとき、地元の相撲大会で準優勝したことをきっかけに、本格的に相撲を始める。中学1年次に全国中学校相撲選手権大会に出場。3年次には同大会団体戦でベスト8入り。飛龍高校に進学し、2年次の全国高等学校総合体育大会相撲競技大会では、同学年の佐藤貴信(のちの貴景勝)を破って団体3位。卒業後は近畿大学に進むも、2年で退学。故郷に帰ったが、伊勢ヶ濱親方の説得で部屋に入門し、2016年9月場所で初土俵を踏む。2020年3月場所で新十両。同11月場所は10勝5敗同士の旭秀鵬との優勝決定戦を制して十両優勝を果たした。新入幕で迎えた先の1月場所では、9勝6敗で技能賞を獲得。身長171cm、体重117kg。得意は押し、肩透かし。

【著者プロフィール】

飯塚 さき(いいづか・さき)

1989年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーランスのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(報知新聞社)、『IRONMAN』(フィットネススポーツ)、Number Web(文藝春秋)、Yahoo! ニュースなどで執筆中。

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