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インタビュー

正代(後編):新大関が語る相撲の魅力は“一瞬の美学”

2020年11月2日 11:13配信

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日本の伝統文化を色濃く継承する、華やかな大相撲の世界。力士たちは皆、なぜこの道を志し、日々土俵に向かっているのだろうか。本連載コラムでは、さまざまな人気力士たちにインタビューし、その素顔を探っていく。

今回は、9月場所で優勝して新大関となった正代関の電話インタビュー後編。「ネガティブ」と形容されがちな正代関であるが、その根底には、彼のどこまでも謙虚な心がある。そんな謙虚な“正代節”で、来場所への抱負も語ってもらった。

(聞き手・文・撮影=飯塚さき)

後悔するか否かは やり切ったかどうか

――小学1年生から相撲を始めた正代関。きっかけはなんだったのでしょうか。

正代関(以下、「」のみ)「自分から相撲をやりたいと言ったかどうか、今となってはわからないんですけど、宇土少年相撲クラブの監督にスカウトされたのがきっかけです。最初の頃は遊びの延長で、楽しいと思ったので、通うことになりました。2~3年生から稽古が本格化しましたが、その頃には自分の取柄のひとつとして、このまま続けていくのかなと漠然と思っていました。もちろん、大変なことやつらいこともありましたけど、もともと相撲が大好きだったおばあちゃんをはじめ、家族の応援に応えたいという気持ちで続けてこられました」

――その後、熊本農業高校、東京農業大学と進学し、全国でも活躍する選手になりました。具体的に角界入りを考えたのは、いつぐらいからでしたか。

「大学4年生になってからです。角界入り云々よりも、就職への不安が大きかったので、角界に就職したような気持ちでした」

――それでも、入門から着実に力をつけてきて、いまや大関にまでなられた正代関です。当時の選択に、後悔はないのではないでしょうか。

「自分の場合は、たとえ関取になっていなかったとしても、選択を間違えたとは思っていなかったと思います。その道に進むと決めたのであれば、それが正しかったか間違いだったかではないし、成功したから正しかったというわけでもないと思うんです。スポーツはなんでもそうかもしれないですけど、本人の努力次第でいくらでも変えられるところがあるし、かと思えば才能や努力がすべて結果につながるわけでもありません。もし成功しなかったとしても、引退という形で相撲人生に区切りをつけることはできます。そのときに、相撲をやっていてよかったと思えるかどうかは、自分のなかでやり切ったかどうか。やり切ったら、成功していなくてもやってよかったと思えるし、後悔があるなら、成功かどうか関係なく後悔すると思うんです」

――おっしゃる通りです。たしかに、後から振り返ると、行動したことへの後悔よりも、やらなかったことに対する後悔のほうが大きいような気がします。

「こんなこと、あんまり人には言わないですけど、相撲に限らずいろんなスポーツに挑戦しても、成功する人がいればしない人もいます。でもきっと、挑戦したことに対して後悔はしないと思うんです。結果につながらなかったとしても、そこでの経験を後の人生につなげていこうって思えるからです。やり切ったっていう気持ちがあれば、その選択は失敗ではないと思いたいし、そう考えないと気持ちを保てませんから」

趣味は漫画とアニメ インドア派の新大関

――ここからは少し、正代関のプライベートについてもいろいろと伺いたいと思います。新型コロナウイルスの影響で外出が制限されるなど、力士の皆さんも大変なご苦労があると思いますが、自粛期間はどのように過ごされていましたか。

「5月場所が中止になったときは、本当に部屋から出られなくなったので、時間を埋めるためにトレーニングをしていました。それでも、やっぱり限界はあるので、Netflixなど動画サイトに契約して、空き時間に見ていました」

――普段の趣味は?

「漫画を読むことと、好きな漫画がアニメ化したらそれを見ることです。それで、この自粛期間中に、後回しになってしまっていたアニメを見ていました。自分が好きなアニメは見ていたけど、他の人が面白いと言っているものは後回しになっていたんです。もうだいたい見終わって、今は他に見るものに困っているくらいです(笑)」

――自粛期間で、一番よかったアニメはなんですか。

「『メイドインアビス』というファンタジー系のアニメです。好き嫌いが分かれるらしいんですが、自分はハマりました」

――いま流行りの『鬼滅の刃』は?

「好きですよ。どちらかというと、ジャンル問わず結構手広く見ていると思います」

――自粛が続いたとはいえ、もともとインドア派なんですね。

「はい、完全にインドア派ですが、やっぱり外に出られないとなると、外食とかにも興味が出てきましたね」

――故郷の熊本に帰ると、必ずすることなどはありますか。

「母親の手料理を食べてゆっくり休むことと、今年に入ってからはできていませんが、同級生に声をかけてご飯に行くことです。今回は、帰ったその日に母がカレーを作ってくれていていました」

――食べ物に好き嫌いはあるんですか。

「ほとんどのものが好きで、あまり嫌いなものはないんですけど、パクチーが少し苦手です。刻んで料理に混ざっていれば気にならないけど、上にどーんと載っていると、ついどかしちゃいます」

相撲の魅力は“一瞬の美学”

――正代関が思う、相撲の魅力はどこにありますか。

「他のスポーツにもあるかもしれませんが、“一瞬の美学”です。相撲取りは、他の選手に比べてスタミナはないと思いますが、立ち合いからのほんの一瞬に、その日すべての体力をつぎ込んで、勝ちを狙いにいく。そこが魅力です。一瞬で終わってつまらないと思う人もいるし、勝負は一瞬なのに所作が長くて退屈だと思う人もいると思います。自分も正直、子どもの頃に大相撲を見なくなってしまったのは、仕切りの時間が長いなと思ったからです。でも、相撲がわかってくると、制限時間まで仕切りを重ねる緊張感や、そのときの力士たちの心情が、見ていて何となく伝わってくると思います。通な人のなかには、むしろ仕切りまでの時間の緊張感がいいと言う人もいますよね。それに、仕切りの時間がつまんなくなっちゃっても、一緒に見ている人とおしゃべりしながらでも飲みながらでも、自由に自分の時間を過ごしていていいんです。時間になったら声をかけ合って土俵に注目してもらって。それがわかっていただければ、もっと多くの人に気軽に見ていただけるかなと思います」

――来場所からは大関として土俵に上がることになります。来場所の目標をお聞かせください。

「大関とはいえ、上がったばかりでまだ漠然としていますが、来場所はまず勝ち越しを目指します。そこから二桁勝利を目指し、そこまでいったら優勝争いに絡んで、場所を盛り上げられたらなと思います」

――まだもうひとつ上の地位があります。長い目で見た目標や夢はありますか。

「力士になってから、関取になりたいとは思っていましたが、ここの地位まで行きたいという目標は、あまり設定していなくて。大関も、実感がないし…。家族も、応援はしてくれていると思いますが、信じられない状況ですので。とりあえず、長く相撲を取り続けて、たくさんの方に応援していただける力士になりたいと思っています。自分が決めたことをやり抜くなかで、結果もついてきたらいいのかなと」

――最後に、この記事を読んでいる大相撲ファン以外の皆さんにも、ぜひメッセージをお願いします。

「もしも気が向いたらでいいので、少しでも相撲に興味をもっていただけたらと思います。一度見てみて、興味がもてなかったら違うスポーツに行っていただいて構いませんので、気が向いたら、ちょっとでも見てもらえたらうれしいです」

【プロフィール】

正代直也(しょうだい・なおや)

1991年11月5日生まれ。熊本県宇土市出身。小学1年生のときに、近所の宇土少年相撲クラブの監督にスカウトされ、相撲を始める。中学生で全中の団体優勝メンバーとなり、熊本農業高校3年生では国体相撲少年の部で優勝。東京農業大学に進学し、2年時に学生横綱となる。4年生で角界入りを決意し、時津風部屋に入門。2014年3月場所で初土俵を踏む。翌年9月場所で新十両、さらに翌年1月場所で新入幕と順調に番付を上げていき、2017年1月場所で新三役。今年、2020年の7月場所で、自身初となる三役での二桁勝利を挙げ、翌9月場所で悲願の初優勝。大関への昇進が決まった。身長184cm、体重165kg。得意は右四つ、もろ差し、寄り。

【著者プロフィール】

飯塚さき(いいづか・さき)

1989年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーランスのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(報知新聞社)、『IRONMAN』(フィットネススポーツ)、Number Web(文藝春秋)、Yahoo! ニュースなどで執筆中。

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