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インタビュー

若元春(前編):熱戦を繰り広げた7月場所 印象的な取組を振り返る

2022年8月30日 16:08配信

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日本の伝統文化を色濃く継承する、華やかな大相撲の世界。力士たちは皆、なぜこの道を志し、日々土俵に向かっているのだろうか。本連載コラムでは、さまざまな人気力士たちにインタビューし、その素顔を探っていく。

今回お話を聞いたのは、3月場所で初優勝を果たした若隆景の兄であり、「大波三兄弟」の次男としても知られる、荒汐部屋の若元春だ。先の7月場所では負け越してしまったものの、熱戦を繰り広げた横綱・照ノ富士戦をはじめ、非常に印象深い力士の一人として爪痕を残した。そんな先場所を本人に振り返っていただく。

聞き手・文・撮影/飯塚さき

初の横綱戦はまわし待ったを含む大熱戦

――7月場所もお疲れさまでした。振り返ってみて、いかがですか。

若元春関(以下、「」のみ)「成績としては負け越してしまったんですが、負けた相撲のなかでも納得できるものが多かったので、全体を通してしっかり力を出せた場所だったのかなと思います。その上で負け越しているので、正直実力が足りなかったのかなと」

――中日の横綱戦は白熱した一番でした。関取が横綱を押し込んだ際に行司さんからの「まわし待った」があり、一時中断。その後再開して惜しくも敗れてしまいましたが、初の横綱戦はいかがでしたか。

「そのときは必死で取っていたので、待ったの声も聞こえませんでした。でも、あの取組に関しては悔しさもあまりなくて、力を出し切った、頑張ったなという感じです。まわし待ったの瞬間は、横綱が土俵を割った直後に行司さんに何か言っていたので、何かあったんだろうなと思って審判を見たら、審判も首をひねっている。土俵下に降りて、正代関にまわしを直してもらってから、横に立っていた呼出しさんに聞いたんですよ。『まわし待ったみたいです』と言われて、そのときに、ああそういうことだったのかって初めて気づいたんです」

――あの1件は難しいところでしたよね。

「誰が悪いわけじゃないです。それに、皆さんまわし待ったのほうにばっかり目が行っていて、僕らが頑張ったっていうほうが薄れてしまっているので、頑張ったほうを見てほしいですよね(笑)」

――善戦はしましたが惜しかったです。また、14日目の霧馬山戦では、両者動きを止めない攻防ある相撲で取り直しになりました。二番目の相撲も同じくらい白熱した上、関取が霧馬山関をうっちゃるような形で倒れる際どい相撲に。結果としては負けてしまいましたが、あの一番はどう振り返りますか。

「霧馬山関は、十両に上がったタイミングが一緒だったし、よく出稽古にも来ていて、幕下時代から長く稽古していた相手だったので、負けたくない気持ちがありました。その気持ちが相撲に乗ったのかな。でもまあ、昔から『際どい相撲を取るヤツが悪い』といわれますので、そういう相撲を取るほうが悪いんですよ(笑)。ほかの人の目から見ても、はっきり勝ったとわかるように勝てばいいので、そういう相撲を取れない自分が悪いです」

――取り直しになってもおかしくないような一番でした。もし3番目があったら相当きつかったのでは。

「というか、もう2番目の時点でかなりきつかったので(苦笑)。ただ、場所中はずっときついですよ。あの日は14日目で特にしんどかった。それでも負けたくなかったので、最後まで頑張りはしました」

“負けて覚える相撲かな”

――ほかに、ご自身にとって印象的な取組はありますか。

「3日目の大栄翔戦ですかね。同い年で学生時代から対戦があって、入門も近いので、そういう相手と対戦できたこと。負けはしましたが、前に前に攻められたのがよかったです。あとは大関戦。正代関と貴景勝関の2番取りましたが、正代関には勝って、左がガッツリ差せたら前に出られるんだと自信になりました。貴景勝関にはあっさり負けたように見えたと思うんですが、あれが自分のよくないところ。立ち合いで当たって腰が引けたり、押し込めないと止まって相手を見てしまったりするのが敗因なんだなと、勉強になりました。そういう意味では、負けた相撲のほうが大事です」

――では、先場所で見えた課題はありますか。

「勝ち越し切れなかったのは、自分の実力不足の証明です。左四つになるとよく勝てるけど、その形にまで持っていけない相撲が多かったので、その過程を強化したい。立ち合いで思うように立てずに、一気に持っていかれることもまだあるので、うまく立てなくても、粘って左四つにまで持っていく相撲を目指したいと思います。もちろん、立ち合いから押し込んで一気に攻める相撲を毎日できるのが理想ですが、タイミングや相手との駆け引きでうまく当たれないこともあるので、そういうときでもしっかり左四つに組み止められるようにしたいと思います」

――関取には左を差されないようにと、相手にも研究されているでしょうからね。

「相手に研究されるのはありがたいことですけどね。先場所の霧馬山関なんて特にそうでした。左を差せても、すぐ巻き返してきましたから」

自身の強みは「メンタル面の強さ」

――関取は、まわしの切り方もうまいなと思って見ていますが、いかがですか。

「いや、まだまだです。まわしの切り方は、いまの師匠によく教わってきました。まわしを切って左を差す。でもそれは、まだこれから磨いていかないといけない課題です」

――では、ご自身の思う強みはなんでしょうか。

「メンタルですかね。昔は集中しなきゃと思っていたけど、徐々にこのやり方は合っていないなと思うようになって、あえて集中せず、勝ち負けにも固執しないことにしたんです。集中することが下手で、例えば支度部屋ではすごく集中できていたのに、土俵下で切れちゃうこともありました。だから、はなから集中しないというスタイルです。十両上位からそれを意識し始めて、体に力が入らないようにしているので、今回の横綱戦も緊張せず、自分の相撲を取れました。そういうところは強みなのかなと思います」

――独特な感覚ですね。では、仕切りでは何を考えているんですか。

「あまり何も考えていないですね。相手と目が合うのは嫌いなので、なるべく相手を見ないようにしています。相手が目線を外したときに少し見て、様子をうかがうというか」

――人によっては相手を睨みつけるような力士もいますが…。

「そうですね。見られているなあとは思うんですが、絶対相手の目は見ないようにします(笑)。モチベーションを上げていれば怖くないけど、自分は集中していないスタイルなので、怖いから見ない。びびっているわけじゃなくて、思い切って自分の真の力を出せるように、ですね。たぶん、特殊だと思います。でも、それが自分のペースを守るための術なんです。頑張ることは向かないというか、頑張っていないくらいのほうが成績は伸びるので、気負わずのびのび取らせてほしいです。頑張るのは弟に任せて、ね(笑)」

(第42回・後編へ続く)

【プロフィール】

若元春港(わかもとはる・みなと)

1993年10月5日生まれ。福島県福島市出身。兄は幕下・若隆元、弟は関脇・若隆景。小学2年生から兄と共に相撲を始め、柔道やソフトボールにも取り組む。中学から相撲一本に絞り、学法福島高校に進むと、3年連続インターハイ個人に出場。3年次に東北大会準優勝。兄が入門していた荒汐部屋に入門し、2011年11月場所で初土俵を踏む。その後、わずか1年半で幕下優勝を果たすが、入門から7年が経って念願の新十両昇進。今年の1月場所で新入幕を果たし、3場所連続で9勝6敗の躍進。先の7月場所では、自己最高位となる東前頭4枚目に昇進。結果は惜しくも6勝9敗と負け越したものの、内容十分の相撲でその存在感を見せつけた。身長185cm、体重139kg。得意は左四つ・寄り。

【著者プロフィール】

いいづか・さき

1989年12月3日生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーランスのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)、『IRONMAN』(フィットネススポーツ)、Yahoo!ニュースなどで執筆中。

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