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インタビュー

錦富士(前編):新入幕から2場所連続の二桁勝利 9月場所の裏側に迫る

2022年10月28日 10:45配信

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日本の伝統文化を色濃く継承する、華やかな大相撲の世界。力士たちは皆、なぜこの道を志し、日々土俵に向かっているのだろうか。本連載コラムでは、さまざまな人気力士たちにインタビューし、その素顔を探っていく。

新入幕の場所で敢闘賞受賞。入幕2場所目となる先場所も二桁勝利を挙げ、いま勢いに乗る伊勢ヶ濱部屋の錦富士。久々の稽古見学で見たのは、誰よりもストイックに体を動かす彼の姿だった。躍進した先の9月場所について振り返っていただく。

聞き手・文・撮影/飯塚さき

4日目に「首がはまった」好調の秋場所

――10勝を挙げ、大いに活躍された秋場所を振り返っていただきます。まず、場所前の調子はいかがでしたか。

錦富士関(以下、「」のみ)「特別調子がいいわけではなく、痛めている左肘をいたわりながら、極力痛みの少ない状態で相撲が取れるように、治療やアイシング、ストレッチに常に気を配っていました。でも、だからといって稽古量が落ちることもなく普段通りでした」

――出稽古はありましたか。

「(所属する伊勢ヶ濱部屋は)関取衆が多くて毎日横綱の胸も借りられるので、ほかの部屋に出向くことはなかったんですが、一度髙安関と明生関が来てくれて、同じ左四つの先輩といい稽古を積めたかなと思います」

――初日から動きもよかったですね。

「いまだから言えるんですけど、実は場所前に頸椎を痛めて、今場所は頭からかませないなと思っていたんです。胸から行く稽古もしていますが、その立ち合いで幕内力士相手にどこまでできるか不安もありました。でも、これで負けたらしょうがないと思い切って当たっていけたので、初日、2日目といい相撲を取れました。4日目は、ずっと上位にいた隆の勝関と当たったので、負けてもともとという気持ちでいったら、立ち合いで当たった瞬間に首がはまったんです。そこからはいつも通りかましていけるようになりました」

――すごい。そんなことあるんですね。

「立ち合いの衝撃で、首が真っすぐに戻った感じですね。カイロ(プラクティック)もゴリゴリって鳴らすじゃないですか。立ち合いは、人の手では生み出せないくらいの力があるので、その衝撃でガンっとはめられた感じで戻りました」

――そこから星を伸ばし、10日目で勝ち越しを決めました。心境はいかがでしたか。

「その前の場所は11日目で決めたんですが、1つ不戦勝がありました。それよりさらに早かったのでうれしかったです」

――全体を通して印象的な取組はありますか。

「14日目の貴景勝関戦です。本来当たれる番付ではないのに当ててもらえました。負けてしまったんですが、自分に足りない部分に気づけたし、対戦してみたい相手でもあったのでうれしかったですね」

――結果としては、新入幕から2場所連続の二桁勝利です。いかがですか。

「それもすごくうれしいけど、毎日ネット記事で北の富士さんや理事長(八角親方)に『技能相撲だ』と褒めていただいていたのがうれしかったです。今場所は技能賞をもらえたんじゃないかなと勝手に思っていたんですが、甘い考えでした(苦笑)。ただ、師匠に『先場所は7番(10勝のうち3勝が不戦勝)で敢闘賞をもらえたのに、今場所は10番勝ってももらえなかった。でも、僕のなかでは敢闘賞です』とパーティーのときに言ってもらえて、それがすごくうれしかったです。自分より大きい相手のほうが多いなかで、まわしを切ったり土俵際で回り込んだりと、普段稽古場で一生懸命やっていることが、たまたま本場所で出ました。自分なりにつかんだ手応えを客観的に言ってもらえて、主観と照らし合わせられた部分があったので、よかったなと思います」

課題は「自分の形にこだわること」

――新入幕だった先々場所では、同郷のライバル阿武咲関との対戦もありました。

「いままで何度か勝ちそうになったときはあったけど、結果として試合では一回も勝ったことがないんです。普段得意としている相手だったらとっさに体が動くのに、逆に一瞬いけると思って止まってしまいました。スパーンと中に入って走るのがうまい力士なので、その一瞬の隙をうまくつかれてしまいましたね。ただ、お互い思い切って取れたのと、負けた瞬間はめちゃくちゃ悔しかったけど、風呂から上がる頃にはスッキリした気持ちがありました。次は初めて番付を抜くので、次こそは勝ちたいですね」

――先場所も今場所も素晴らしい結果だったと思いますが、あえて課題を挙げるとしたらどんなことがありますか。

「調子がよすぎるがゆえに自信をもちすぎているところでしょうか。先場所の貴景勝関のときは、同級生というのもあって、バチバチにぶつかり合うことの気持ちよさが勝ってしまい、自分の形になろうとしませんでした。上体を起こして押しにいかずに何回も下から行って前みつを取っていれば、あの突き落としを食わなかったんじゃないかと思います。翔猿関のときは、どうやっても負けないんじゃないかという自信があって、相手に合わせて相撲を取ってしまいました。相手の土俵で相撲を取ったら勝てない。これからさらに上を目指すには、なんとしても自分の形になることが足りなかったと感じました。常にいろんな稽古相手がいるのはよさですが、いろんな相撲が取れていることに自信をもちすぎているんです。自分の形をしっかり磨いて、その形に絶対なる執念、こだわりが足りないなと思います」

――自分の形、つまり関取の強みはどんなところでしょうか。

「右前まわしを取ったら負ける気がしません。でも、そこが取れないと左下手になるので、ケガしている部分に負担をかけることになる。だから、稽古場ではいつも前まわしを早く取る、強くたたくイメージでやっています。たとえ取れなくても、強くたたいて下から手が出ていれば、おっつけや押しにも転換できるからです。本当にちょっとずつですが、形になってきているので、そこにこだわっていきたいと思っています」

若い衆に負けないくらい稽古する

――普段、取り口の研究はされますか。

「はい。そもそも小学生の頃は、白黒の時代から若貴くらいまでビデオを持っていて、しょっちゅう見ていました。最近は北の富士さんや3代目若乃花さん、輪島さんなど左四つで活躍した人の相撲をよく見るようにしています。あとは北の湖さん。どう圧力をかけて当たって、お腹をどう使うのか、腰をどう寄せるのか。稽古場では、宝富士関が左四つなので聞くこともあります」

――研究するなかで、稽古場で実践しているのはどんな部分ですか。

「若乃花さんは、頭を入れながらまわしを切るのがめっちゃうまくて、それは僕も稽古場で意識してやっています。稽古場でできても本場所でできないことって結構あるんですが、それが僕の場合は2年前くらいからようやくできてきた感じです。3年先の稽古ってよく言われるけど、本当にそうだなって。うちの師匠は角界でも知られた厳しい人ですが、関取衆になると言われる場面って少なくなるので、だからこそ若い衆に負けないくらいやる気持ちでいます」

――今日の稽古でも人一倍よく動いていましたね。

「はい。基本的には毎日やっているメニューです。痛いからやらないんじゃなくて、どうやったら少しでも痛みが和らいだ状態でできるか。今日は番数が少なかったけど(熱海富士関と20番)、その分、一番にこだわる割合は上がっていると思います。相撲以外は下半身を中心に鍛えて、その後は腕立て伏せもして。最近、スピードと体幹の強さを強化しようと、アジリティ系のジムにも通い始めました。栃ノ心関とかと腕っぷしだけでは勝負できないので、そこは考えてやっています」

(第44回・後編へ続く)

【プロフィール】

錦富士隆聖(にしきふじ・りゅうせい)

1996年7月22日生まれ。青森県十和田市出身。幼少期はサッカーを習うも、小学3年生から相撲を始める。6年生のとき、わんぱく相撲全国大会でベスト8、十和田市立十和田中学校3年生のときに全国大会でベスト8。打越(阿武咲)と共に三本木農業高校に進学した。3年生で全国高校相撲宇佐大会個人3位入賞。高校卒業後は近畿大学に進学するも、2年次に中退して伊勢ヶ濱へ入門。2016年9月場所で初土俵を踏む。入門からわずか1年で幕下昇進。その後、2019年7月場所に、東幕下3枚目で5勝を挙げ、翌場所で新十両を決めた。今年の5月場所では、11勝4敗の成績で十両優勝。新入幕の7月場所では10勝で敢闘賞受賞。先の9月場所でも10勝を挙げた。身長183cm、体重149kg。得意は左四つ・寄り。

【著者プロフィール】

いいづか・さき

1989年12月3日生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーランスのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)、『IRONMAN』(フィットネススポーツ)、Yahoo!ニュースなどで執筆中。

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