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インタビュー

白鵬(後編):横綱が見据える「未来」とは?

2019年10月24日 15:00配信

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日本の伝統文化を色濃く継承する、華やかな大相撲の世界。力士たちは皆、なぜこの道を志し、日々土俵に向かっているのだろうか。本連載コラムでは、さまざまな人気力士たちにインタビューし、その素顔を探っていく。

人気・実力ともにナンバーワンの横綱・白鵬関のインタビュー後編。来年に迫った東京オリンピック・パラリンピックへの思いも伺った。

(聞き手・文・撮影=飯塚さき)

白鵬(前編):「型をもって型にこだわらない」横綱スタイル

30歳を過ぎても衰えない横綱のコンディショニング

――白鵬関には、衰えを知らない圧倒的な強さがあります。その強さの秘密はどこにあるのでしょうか。

白鵬関(以下、「」のみ)「やはり、7年前から取り入れている食事療法は効いています。必ず食べる前には野菜を食べて、油は亜麻仁油をとるようにしているんです。そういったことが、ケガをしにくい筋肉や関節をつくることにつながって、ここまで来られたんだと思います」

――食べる稽古や寝る稽古もたくさんしてきたとおっしゃっていました。日々のコンディショニングでは、気をつけていることがたくさんあるのですね。

「そうですね。筋トレでも、マシンやフリーウエイトを使った自分独自のトレーニング方法があって、足のつま先から頭のてっぺんまで鍛えています。立ち合いからの相撲の流れに沿って、ほしい動きに合ったトレーニングをしています」

――巡業でも、人一倍稽古をしている横綱の姿は、ほかの力士たち含め多くの人が見ているところです。

「もちろん、トレーニングは補強ですので、相撲の基本である四股・すり足・鉄砲は、ベースとして必ずしなくてはいけないものです」

――稽古やトレーニングをより効果的にするために、サプリメント類は飲んでいますか。

「もちろん、稽古の前にいろいろ飲んでいます。プロテインやBCAAなど、必要なものは取り入れていますよ」

横綱の強さは筋肉のつき方にあり⁉

――日々たくさんの稽古を重ねたり、コンディショニングに気を使ったりと、横綱の強さの秘訣は数多くあるのだろうと思います。特筆すべきは、その技術力の高さと柔軟性の高さです。いったいどこでどのようにして身につけてきたのでしょうか。

「5、6年前に、テレビ番組で体の隅々までチェックしてもらいました。私の体を支えているもののなかでほかの人と圧倒的に違うのが、腰から骨盤を支えている大腰筋という筋肉だということが、そこでわかりました。どうやらとてつもない太さなんだそうです。あと、太ももに関しては、鍛えると普通は前が盛り上がるのですが、私の場合は後ろが盛り上がっている。後ろはなかなかつきづらいにもかかわらず、私の太ももは前と後ろが変わらないくらいの大きさなんだそうです。だから、前に攻めるときも後ろに守るときも、バランスがいい」

――筋肉のつき方にも秘密があるんですね。そうなるように鍛えようとしたというよりは、強さを追い求めた結果としてそういう体になったということでしょうか。

「おそらくそうですね。マシンで鍛え始めたのは30歳になってからなので、まだ4年です。でも、20代までの相撲の稽古で、体のしなやかさを身につけられたので、いかに相撲の稽古が大変で大切かがわかります。ただ、一般の人は40歳から、我々アスリートは30歳から筋トレを始めないと、もう遅い。ゴルフをやっているから大丈夫という人もいるんですが、鍛えた体でゴルフをしないと、腰や膝などをケガしますよ。40歳までは、親からもらった肉体で持つと思うけど、それを超えたら、何もしていないと動かなくなってしまいます。現代人は特に、意識していないとなかなか運動する機会がなくなっているので、重いものを持てということではなく、チューブとかの軽い負荷で動いたり、ストレッチしたりするだけで、ずいぶん違うでしょう。これは、私から一般の皆さんへのメッセージです」

横綱が見据える未来と東京オリンピック・パラリンピック

――部屋の後輩には、内弟子である炎鵬関や、石浦関がいらっしゃいます。後輩の指導や育成には、どのように取り組んでいますか。

「二人とも、ほかの人より体が大きくないので、人一倍頑張らなくてはいけません。人よりも疲れやダメージが大きい分、15日間の戦い方を考えなくてはいけないと伝えています。その代わり、場所前に今しかできない稽古をうんとすれば、3、4年後に必ずそれが生きてきます。二人そろって負け越した5月場所の後には、二人を捕まえてたくさん稽古しました。私はこれだけ稽古してきたから、彼らもそうすれば必ずもっと強くなるということを見せたつもりです。特に炎鵬は、まだ体の線が細いので、稽古もそうですが食べることもさせています」

――来年には、待ちに待った東京オリンピック・パラリンピックが控えています。横綱のご予定は?

「昨年行われた『大相撲beyond場所』が、来年も開催されると聞いています。これは、外国の方や障害者の方を国技館に招待し、大相撲の文化に触れてもらう試みです。オリンピック・パラリンピックイヤーに、世界中から集まった皆さんに相撲を見せるいい機会になるかなと思います。前回オリンピックが行われた1964年と今の東京では、いろんなところがとても違いますが、そこに親父が選手として来ていたのは、感慨深いものがあります。父と同じように、私も現役としてその瞬間を迎えられたらうれしいし、それが私の今のモチベーションです。大会が終わっても現役は続けては行きたいけれど、次のバトンを渡せるいい力士が出てくるように、引っ張ってあげなきゃいけない責任感もあります。お父さんの四股名を継いだ琴ノ若や、朝青龍の甥である豊昇龍など、楽しみな力士が次々と出てきています。そういう子たちと対戦するのも、一つの夢だね」

――では最後に、今後の目標をお聞かせください。

「相撲でいえば、千代の富士関の最高齢優勝記録(38歳8か月)など、記録の目標はたくさんあります。それを見据えていれば、オリンピックは軽く超えるだろうね(笑)」

※この対談は8月に行われたものです

【プロフィール】

白鵬翔(はくほう・しょう)

1985年3月11日、モンゴル・ウランバートル市生まれ。本名・ムンフバト・ダヴァジャルガル。宮城野部屋所属。メキシコ・オリンピックのレスリング重量級銀メダリストである父のもとに生まれ、2000年に初来日、宮城野部屋に入門し、01年3月場所に初土俵を踏む。序の口の土俵では負け越すも、その後04年1月場所で新十両、5月場所で新入幕と出世街道を駆け上がり、07年7月場所から現在まで綱を張る。連勝記録は63。10年3月場所~9月場所の4場所連続全勝優勝で、双葉山の69連勝に次ぐ歴代2位、15日制になってからは歴代1位の記録。そのほか、横綱在位72場所、優勝回数42回、全勝優勝15回など、いずれも歴代1位の大記録を数多く保持している。得意技は、右四つ、寄り、上手投げ。身長192cm、体重155kg。

【著者プロフィール】

飯塚さき(いいづか・さき)

1989年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、18年に独立。フリーランスの記者として『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(報知新聞社)、『Yoga&Fitness』(フィットネススポーツ)、『剣道日本』などで執筆中。

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