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インタビュー

大栄翔(前編):辿り着いたのは突き押し相撲 5月場所への思い

2020年4月27日 14:33配信

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日本の伝統文化を色濃く継承する、華やかな大相撲の世界。力士たちは皆、なぜこの道を志し、日々土俵に向かっているのだろうか。本連載コラムでは、さまざまな人気力士たちにインタビューし、その素顔を探っていく。

今回話を聞いたのは、追手風部屋の大栄翔関。昨今の新型コロナウイルスの影響により、本連載初となる電話インタビューを行った。無観客で開催された春場所の感想や、突き押し相撲の取り口について伺う。

(聞き手・文・撮影=飯塚さき)

史上初の無観客開催で声援の大きさを改めて実感

――新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、3月の春場所は無観客で開催されました。慣れない環境下だったと思いますが、率直な感想はいかがでしたか。

大栄翔関(以下、「」のみ)「序の口のときは、ほとんどお客さんのいないガランとした会場で相撲を取っていました。番付が上がるごとに少しずつお客さんが増えていく実感があって、最近はお客さんがいっぱいいて当たり前でした。もちろん、それを“当たり前”と思わず、ありがたいと思ってはいたつもりですが、無観客で開催したことによって、声援を聞いたりお客さんに盛り上がってもらったりすることで、自分の力になっていたんだということを、改めて感じました」

――テレビ越しではありますが、無観客の環境には皆さん数日で慣れてきたように見受けられました。実際にはいかがでしたか。

「最初は戸惑いがあったんですけど、でも徐々に日がたつうちに慣れてきました。お客さんの声援はないけど、その分テレビで見てくれているんだという考えがあったんです。毎日、取組が終わると『いい相撲だったね』『惜しかったね』と、いろんな人から連絡をもらいました。テレビで見ている人のためにいい相撲をとろうと思うことが、力になっていきました。平常心でいつも通り取ろうと思って、そうできたと思います」

――結果は見事勝ち越し! おめでとうございます。初日・2日目と、最初から横綱戦が続いて、3日目まで白星が出ませんでしたが、4日目から怒涛の連勝を重ねました。

「最初の3日間は、実力通りです。気持ちの面でも、声援がないことは全然違うんだなと思い知らされました。ただ、思い切りはできたかなと思います。4日目の大関戦(貴景勝戦)でいい相撲が取れたことと、そこから“場所は始まっているし、やるしかない!”と思って気持ちを切り換えられたのが、よかったと思っています」

――その後、勝ち越しの1勝を決めるまでに少し星を落としましたが、14日目に8勝目を挙げました。ご自身のなかで、よかった部分や改善点などはありますか。

「後半戦、流れに乗って行けなかったのが悔しいです。気持ちの面では楽に取れていたので、敗因は技術面だと思います。勝ち越しを決めたときは、ほっとしました」

武器は突き押し!親方からの助言で磨いた

――突き押し相撲で魅せる大栄翔関ですが、アマチュアの頃を振り返ると、取り口がかなり変わってきたように見えます。このあたりは意図的に変えてきた経緯があるんでしょうか。

「はい。高校までは四つがメインで、突き押しはあまりしていませんでした。でも、プロに入ってからは、親方に『高校生のなかでは体が大きくても、プロに入ったら小さいほうなんだから、突っ張っていったほうがいい』と言われたんです。実は、(埼玉栄高校の)山田監督にも言われていましたし、親方には今でもずっと言われています。序二段のとき、四つになって負けたことで、ああ親方の言っていることは正しいなと自分でも気づいて、それからは稽古場でも徹底的に四つにならないようにしてきました。番付が徐々に上がるにつれて、本場所の土俵でも四つ相撲は少なくなりましたね。そういう部分では、成長できているかなと思います」

――なるほど、やはり師匠の助言は素晴らしいですね。今後も突き押しの型を突き詰めて、強さに磨きをかけてほしいと思いますが、ご自身で思う現在の課題は何かありますか。

「自分の突き押しの型を徹底することです。最近は少なくなってきたけど、強い人と取ると自分の形を崩されてしまいます。攻めていった土俵際での逆転負けも多いので、そのあたりを克服したいと思っています」

――そのための具体的な策は?

「細かいところですが、立ち合いを強くすることと、突きの回転を上げること。あとは、つま先立ちになってしまうことが多いので、足の裏を地面につけて安定させること。つま先立ちで相手にかわされると、つっかえ棒がとれてしまったようになって、ついていけなくなるからです。そういう細かいところを一つ一つ改善していくことだと思います」

三役への返り咲き決定 5月場所への思い

――普段、ほかの力士の取組などを見て研究することはありますか。

「四つの力士はまわしを取ろうとしてくるので、こちらはそれを取らせないようにするせめぎ合いがあります。押し相撲の人の取組を見ると、そういった取り口の勉強になりますね。ただ、研究するときは、ほかの人よりも自分の相撲を見ることが多いんです。場所中は、その日のいいところと悪いところを見て、反省しています」

――まずは自分のことを研究するんですね。場所中以外はどうされていますか。

「YouTubeで、昔の人の相撲を見ることはよくあります。強い人は皆さん全員参考になるので、特に誰を…というわけではないんですが、八角親方(元・北勝海)や北の富士さんなどの相撲をよく見て参考にしています」

――これは取り口というより所作の話ですが、大栄翔関は立ち合いのとき、必ずきちんと先に両手をついて相手を待っていますよね。見ていて気持ちのいい立ち合いなんですが、何かポリシーがあるんでしょうか。

「ポリシーというか、昔から先付けで、あれが一番やりやすい立ち合いなんですよね。自分にとってやりやすくてしっくりくるし、いい立ち合いができます」

――次の5月場所は、現状では2週間の延期が決定しています。そのことについてはいかがですか。

「いまは、世界が大変なことになっているので、延期は仕方ないと思います。何よりも、協会員とお客さんが安全でいるのが一番なので、むしろいい判断だと思っています。初めてのことですが、その分しっかり場所前に稽古して体を作って、やるべきことをやるだけです」

――現在では開催の有無もまだわからない状況ではありますが、やると仮定して、5月場所の目標をお聞かせください。

「三役に戻れたので、ここで勝ち越し以上を目指したいです。思い切りいって、自分の相撲を取り切れれば、達成できると思っています」

【プロフィール】

大栄翔勇人(だいえいしょう・はやと)

1993年11月10日生まれ。埼玉県朝霞市出身。小学1年生から朝霞のクラブで相撲を始め、中学生の3年間は入間少年相撲クラブに通う。卒業後、強豪校である埼玉栄高校に進学。3年時には、インターハイ団体2位、個人3位、国体団体2位などの実績を残し、高校卒業直前の24年1月に追手風部屋で初土俵を踏む。翌3月場所で序の口優勝を果たし、26年7月場所で新十両に昇進。入門からわずか2年半での関取昇進となった。27年9月場所新入幕。以後十両と幕内を行き来するが、2017年1月場所で、12勝3敗の成績で十両優勝を果たし、3月場所で幕内に復帰。昨年11月場所に横綱・白鵬を下し、初の三賞となる殊勲賞を受賞。今年1月場所に新三役に昇進した。身長181センチ、体重162キロ。得意は突き押し。

【著者プロフィール】

飯塚さき(いいづか・さき)

1989年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーランスのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(報知新聞社)、『IRONMAN』『Yoga&Fitness』(共にフィットネススポーツ)などで執筆中。

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