インタビュー
大栄翔(後編):相撲一筋の人生 個人競技でも仲間がいる喜び
2020年4月30日 10:20配信
日本の伝統文化を色濃く継承する、華やかな大相撲の世界。力士たちは皆、なぜこの道を志し、日々土俵に向かっているのだろうか。本連載コラムでは、さまざまな人気力士たちにインタビューし、その素顔を探っていく。
大栄翔関のインタビュー後編は、相撲を始めたきっかけに加え、そのプライベートな素顔に迫る。一人暮らしの微笑ましいエピソードをはじめ、土俵上では見られない素朴な彼らしい一面をお届けしよう。
(聞き手・文・撮影=飯塚さき)
小1から始めた相撲 やめたいと思ったことはない
――大栄翔関は埼玉県朝霞市出身で、朝霞の相撲クラブに入って相撲を始めたんですよね。そもそも、相撲を始めたのは何がきっかけだったんですか。
大栄翔関(以下、「」のみ)「小1のときに、相撲大会の案内のプリントが教室で配られて、それを見て大会に出たのがきっかけです。たまたまそこで優勝したので、道場の先生に声をかけてもらいました」
――いきなり出て優勝とはすごいですね。小さい頃から体は大きかったんですか。
「身長は大きいほうでしたが、体重はそこまで重くはなかったと思います」
――今までスポーツは相撲しか習っていないと聞いています。ほかのスポーツに興味は向かなかったんですか。
「休み時間には、友達と外でサッカーやドッジボールをしていたので、興味はありました。ただ、ほかのスポーツもやりたいなと思っても、小学生ながら“自分は相撲しかできないな”という思いがあったんです。昔は、見るスポーツも相撲だけ。ほかの友達は、野球とかサッカーをやっていたけど、自分もやりたいとは思いませんでした。相撲をしていると、柔道やレスリングの子が相撲を習いに来ることがあって、逆に自分もそっちに行くことがあったけど、習うまではいきませんでした」
――小さい頃からずっと相撲を続けてきて、つらいな、やめたいなと思ったことはなかったんでしょうか。
「やめたいと思ったことはないですね。小1から始めて、ここまで相撲をやってきたんだから、自分にはほかに何もできないだろうという思いもありましたが、稽古はきついけど頑張りたいし、もっと強くなりたいと思っていました。根本として、相撲が好きなんだと思います。昔から、見るよりやるほうが好きです」
相撲の魅力は個人競技でも仲間がいること
――アマチュアからプロまで、こうして相撲を取り続けている大栄翔関ですが、取り組むなかで、相撲の魅力はどんなところにあるとお考えですか。
「礼儀作法を学べることはもちろん、厳しい稽古を積んだ後に、試合や取組で勝ったときの喜びを超えるものはありません。生涯忘れられないものになります。稽古がきつくてもそこで頑張れるのは、仲間がいるから。小中学生のときはクラブの仲間がいたし、高校では寮で暮らしました。相撲部屋でも、兄弟子・弟弟子たちとの共同生活です。相撲は個人競技ですが、こうした団体的な要素もあります。もし、たった一人だったらできないと思うんです。相撲の世界には、そういういいところもあります」
――相撲におけるたくさんある魅力のなかで、仲間の大切さを教えてくれるなんて、大栄翔関らしくて心が温まります。たくさんの仲間に愛されながら、十両優勝から殊勲賞受賞、さらに今年の初場所では、新三役として小結の土俵を務めるなど、めきめきと実力をつけてきました。プロとして、これまでの土俵人生で印象に残る取組などはありますか。
「たくさんあって、選びきれませんが…。でもやっぱり、初めて横綱戦で勝利したときでしょうか。昨年9月場所の鶴竜関との対戦です。勝った瞬間にうれしさがこみ上げてきました」
――多くの力士が、横綱戦で勝ったときは印象に残っているとおっしゃいますが、やはりその喜びは、特別なものでしたか。
「座布団が舞う光景は、昔からテレビで見ていたものだし、やっと自分でこの景色を見られたと思って、いまでも目に焼き付いています。すごく興奮しました。家族や友人など、本当にたくさんの人が連絡をくれました」
普段の生活の様子と今後の目標
――大栄翔関は、部屋を出て一人暮らしをしていますが、一人の生活はいかがですか。
「中学生までは実家、高校では寮生活と、常に生活環境下に誰かはいたので、一人暮らしは憧れであり念願でした。でも、いざしてみると、最初は寂しかったんです。寂しいから、結局部屋に戻って誰かと喋ったり……(笑)。でも、2年半経ってようやく慣れてきました。最近は外出もできないので、たまに自炊もしています」
――いつもは外食が多いと聞きますが、最近はどんなものを作っているんですか。
「料理のセンスがないから、クックパッドとか料理本を見ながら作っています。焼うどんとかチャーハンとか、手軽にできるものです。これは料理とは言わないけど、場所中は卵かけごはんを毎日食べています」
――料理のほかに、家では何をして過ごすことが多いんですか。
「ネットフリックスやアマゾンプライムで、映画とドラマを見ています。数年前は『プリズンブレイク』にハマって全部見ました。最近見ているのは『Game of Thrones』。海外ドラマを見ていることが多いですね。あとは漫画も好きで、基本ジャンプは毎週読んでいます」
――YouTubeで過去の力士の取組を見ることがあるとも言っていましたが、YouTubeもよく見るんですか。
「そうですね。ユーチューバーさんの動画とかは全く見ないんですけど、相撲の動画とか格闘技を見ています」
――ご実家には、大栄翔関ご自身が一目ぼれして飼ったという愛犬のチロルちゃんがいます。会いに行くことはあるんですか。
「はい、実家にはたまに顔を出します。最近は2月に行って、チロルにも会いました。3月で4歳になったんです。帰ったら絶対一緒に遊んでいます」
――一人暮らしで寂しいと、犬を飼いたいなあと思うこともありません?
「うーん、でもやっぱり、ほかの犬じゃなくて、チロルに会いたいんですよね(笑)」
――それはわかる気がします…。犬なら誰でもいいんじゃなくて、自分の愛犬がいいんですよね。
「その通りです!」
――昨今は、新型コロナウイルスの影響で世界には暗い影が落ちていますが、大相撲にできることが何かあるのではないかと思っています。大栄翔関個人としては、どのようにお考えですか。
「現役力士としては、テレビで見てくれている人に元気になってもらえるような相撲を取りたいと思っています。僕たちにできることは、それだけです。あとは、自分たちでも徹底して予防することですね」
――では最後に、今後の目標をお聞かせください。
「もう年齢的にも中堅なので、しっかり稽古して、どんどん自分の相撲を極めたいと思います。まだ上の番付もあるので、突き押しの型を突き詰めて、強くなっていきたいです」
【プロフィール】
大栄翔勇人(だいえいしょう・はやと)
1993年11月10日生まれ。埼玉県朝霞市出身。小学1年生から朝霞のクラブで相撲を始め、中学生の3年間は入間少年相撲クラブに通う。卒業後、強豪校である埼玉栄高校に進学。3年時には、インターハイ団体2位、個人3位、国体団体2位などの実績を残し、高校卒業直前の24年1月に追手風部屋で初土俵を踏む。翌3月場所で序の口優勝を果たし、26年7月場所で新十両に昇進。入門からわずか2年半での関取昇進となった。27年9月場所新入幕。以後十両と幕内を行き来するが、2017年1月場所で、12勝3敗の成績で十両優勝を果たし、3月場所で幕内に復帰。昨年11月場所に横綱・白鵬を下し、初の三賞となる殊勲賞を受賞。今年1月場所に新三役に昇進した。身長181センチ、体重162キロ。得意は突き、押し。
【著者プロフィール】
飯塚さき(いいづか・さき)
1989年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーランスのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(報知新聞社)、『IRONMAN』『Yoga&Fitness』(共にフィットネススポーツ)などで執筆中。
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