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インタビュー

琴ノ若(前編):攻めの姿勢で結果を残した初場所「心技体」における極意

2022年2月22日 10:58配信

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日本の伝統文化を色濃く継承する、華やかな大相撲の世界。力士たちは皆、なぜこの道を志し、日々土俵に向かっているのだろうか。本連載コラムでは、さまざまな人気力士たちにインタビューし、その素顔を探っていく。

初場所では、千秋楽まで優勝戦線に残り、11勝4敗の好成績を挙げた琴ノ若関。元横綱・琴櫻を祖父に、現師匠である元関脇・琴ノ若を父にもつ角界のサラブレッドに、初場所の振り返りと「心技体」における極意についてお話しいただいた。

(聞き手・文・撮影/飯塚さき)

優勝争いに絡む大活躍 二度目の敢闘賞受賞

――先の初場所で、11勝4敗の成績を挙げ、優勝争いに絡む素晴らしい活躍を見せた琴ノ若関です。今場所で印象的な一番はありますか。

琴ノ若関(以下、「」のみ)「毎日気持ちをつくっていけましたが、勝ち越しを決めた相撲は、去年の秋場所でケガしたときの相手(宝富士)だったので、いい相撲が取れたかなと思います。結果的には、連敗しなかったことが一番よかったです」

――今場所は調子がよかったですか。

「特別調子がいいというわけではありませんでしたが、相手に対応して、しっかり体を動かせているなとは思いました。流れのなかで、徹底して自分の相撲が取れたのと、今場所はまともな引きがなかったのがよかったかなと思います」

――終盤は、優勝争いを意識しましたか。

「14日目に関脇(隆の勝)と当てられたので、そのあたりで多少は頭にありましたが、深く考えていたわけではありません。結果として、自分が勝たないと決定戦には臨めませんでしたし、相手のほうが番付も実力も上です。いまもっているものを出し切って、やれることをやるだけでした。ただ、道場の先輩でもある隆の勝関に勝てたことは、自信になりました」

――そして、2回目の敢闘賞受賞おめでとうございます。率直にいかがでしたか。

「最初は、もらえたらいいな、くらいで、あまり考えていなかったんですが、千秋楽の相撲を取る前に(受賞したと)聞いたので、いただけるのは素直にうれしかったです」

柔らかさを生かして攻めの姿勢を貫く

――ご自身の強みはどんなところにあると感じていますか。

「独特な体の柔らかさです。相手の攻撃を受けるだけじゃなく、受け流しながらも攻められる形なのかなと思います。目指す取り口については、基本は攻めの姿勢。そこからいろんな攻め手にいくことです。前に出る姿勢をもちながら、そこから相撲のバリエーションや幅を広げていけたらと思っています」

――逆に、現在の課題はなんですか。

「もっと攻めの姿勢を崩さないようにすることです。最近は少しずつなくなってきましたが、関取に上がったばかりの頃は、受けながら、さばきながらの引きが出ているところがありました。そこは少しずつ修正しながら、今回の初場所のような、前に出る相撲が取れればいいなと思っています」

――取り口の研究などは、普段どのようにされているのでしょうか。

「基本は、師匠や兄弟子たちに教わっています。もとは四つ相撲なので、師匠のようなスケールの大きい相撲を見習いながら、自分なりの新しい形を模索していきたいです。相手の研究については、取組前後や帰り道でも映像は見られますので、どういう取り口で来ていたかだけを頭に入れています。ただ、相手のことを見て考えすぎないようにしています。対応できるようにはしますが、あくまで自分のスタイルを貫くことが大事。相手の映像を見すぎるがあまり、相手に合わせすぎて自分の相撲が取れなくなるのが一番よくないと思っています。いまは自分の攻めの形がはまってきているので、あくまでそこを出し切るのが目標です」

緊張しないで力を発揮するには「自分に負けないこと」

――先ほどもおっしゃっていましたが、関取は昨年9月に左ひざのケガをしました。その経験は、いまにどう生きていますか。

「下がる相撲を取ればケガにつながりますから、内容を見つめ直すことをしっかり考えるようになりました。ケガしてから、目的をもって一日を過ごすことの大切さを、より噛み締めています。いまは、自分がきついと思ったときには積極的に治療を受けるようにしているので、そういう面では環境にも恵まれています。いままで大きなケガがなかったので、勢いと若さを全面に出していけましたが、特にいまはコロナの影響で巡業などもないので、自分にはいろいろな面で見つめ直すいい機会になっているのかなと思います。ケガは、しないほうがもちろんいいんですが、このケガで見直す部分があったので、いいきっかけになったと、いまは思います」

――トレーニングや食事など、生活のこだわりはありますか。

「トレーニングはしますが、しっかり自分の体と相談するようにしています。疲れているのに中途半端にやっても意味がないので、しっかりできるときにきちっとやる。食事にこだわりはありませんが、体重と体力が落ちないように、自分が満足するまで食べるようにはしています。小さい頃からたくさん食べさせてもらってきたので、特に好き嫌いはありません。ただ食べて大きくなるのではなく、しっかり稽古して大きくなることが重要で、体を動かずに食べて大きくなっても意味がないので、そこだけは気をつけています」

――いつも落ち着いて取っている関取ですが、緊張しないためにはどうしたらいいのでしょうか。

「緊張感なくヘラヘラしているのはまた違うので、緊張自体が悪いことではありません。自分も、いままで緊張したことはありますが、いい緊張感と硬くなってしまう緊張があるので、とにかくあまり考えないようにしています。その日の勝ち負けがあるし、日々勝たないといけない。そのなかで、相手がどうこうではなく、自分との戦いだと考えること。この場で変な緊張をしているくらいだったら、まだまだだなっていう考えです。落ち着いて取れると自分に言い聞かせるというか、気持ちで負けていたら話にならないな、と思っています。つまり、相手ではなく対自分。自分に負けたら相手にも勝てません。その勝負どころを間違えなければいいのかなと思います。誰にでも緊張する大きな場面はあると思うので、結局戦うのは自分だから、ほかのことを考えても意味ないなと思えればいい。誰だって、緊張してもやらなきゃいけないときはやらなきゃいけないんだから、そこにもっていくのにどうしたらいいかっていう考え方をしています」

(第36回・後編へ続く)

【プロフィール】

琴ノ若傑太(ことのわか・まさひろ)

1997年11月19日生まれ。千葉県松戸市出身。本名は鎌谷将且。元横綱・琴櫻を祖父に、元関脇・琴ノ若を父にもち、5歳から地元の相撲道場(柏少年相撲教室)で相撲を始める。小学校卒業後は、親元を離れて埼玉栄中学校、埼玉栄高校普通科スポーツコースに進学。高校3年次に主将を務め、インターハイ団体優勝、世界ジュニア相撲選手権大会では団体戦と個人戦(重量級)で優勝。高校卒業後、父が師匠を務める佐渡ヶ嶽部屋に入門。2015年11月場所で初土俵を踏む。入門から約3年半となる、19年7月場所で新十両昇進、翌20年3月場所で新入幕を果たし、史上初の3代幕内入りを達成した。四つに組んでも押し相撲でも取れる器用さと、柔軟な体で対戦相手を悩ませる。先の1月場所では、前頭14枚目の位置で優勝戦線に残り、11勝4敗の好成績で自身2度目となる敢闘賞を獲得した。最高位は西前頭3枚目。身長188cm、体重168kg。得意は右四つ・寄り・押し。

【著者プロフィール】

いいづか・さき

1989年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーランスのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(報知新聞社)、『IRONMAN』(フィットネススポーツ)、Number Web(文藝春秋)、Yahoo!ニュースなどで執筆中。

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