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インタビュー

琴ノ若(後編):他競技からの学び、アマチュアとは違う“大相撲の魅力”

2022年3月1日 10:26配信

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日本の伝統文化を色濃く継承する、華やかな大相撲の世界。力士たちは皆、なぜこの道を志し、日々土俵に向かっているのだろうか。本連載コラムでは、さまざまな人気力士たちにインタビューし、その素顔を探っていく。

琴ノ若関のインタビュー後編。今回は、祖父である元横綱・琴櫻と交わした約束から始まった相撲人生や、24歳の若さとは思えないほど深い、他競技からも学ぶ自身の哲学など、幅広くお話を伺った。

(聞き手・文・撮影/飯塚さき)

好成績だった昨年の7月は、気づきがあった場所

――これまでで、印象的な場所はありますか。

琴ノ若関(以下、「」のみ)「去年の7月場所で12番勝てたのが自信になりました。あの場所を通して、この相撲の取り方だったら、このメンタルだったらうまくできるっていう、自分にとっての必要なポイントがわかった場所でした。気づいたらいい成績になっていて、それだけ落ち着いてぶれがなかったのかなと思います。連敗しませんでしたし、負けても前に出る相撲が取れていたので、そこがよかったです」

――初の敢闘賞を受賞した場所ですね。特によかったのはどの一番でしょうか。

「初日の栃ノ心関戦ですかね。元大関ですし、四つ相撲相手に組んで寄り切って勝てたのは、ひとつ自信になったと思います。勝ち越したのは、10日目の一山本戦ですが、あのときは、心に余裕をもつというよりも、逆に緊張感をもっていけたのがよかったです。勝って安心してズルズル負けることもありますし、実際次の日は負けていますが、そこで気持ちを切らせて連敗し、8勝7敗では意味がありません。勝ち越しても、終盤負けを引きずったら、なんだか負けたような気分になります。あそこでひとつ気を引き締めて、また浮かれずに稽古場で負けた相撲を見つめ直せたのがよかったと思います。すぐに切り替えることができて、初の敢闘賞を取れたのもうれしかったです」

角界のサラブレッドが語る他競技からの学び

――史上初の親子3代幕内力士という関取。ご自身が相撲を始めた頃のことは覚えていますか。

「まわしを締めていたのは1歳、2歳くらいだったようで覚えていませんが、本格的にクラブに通い始めたのは年中の4歳くらいのときです。そういう環境にもともと置かれていましたし、力士になるというのは先代(祖父)との約束でもあったので、自分のなかでは自然と始めた感じでした」

――中学から埼玉栄に進学しましたが、それまでにほかのスポーツ経験はありましたか。

「相撲をする体力づくりの一環で、2~3歳くらいから小学6年生まで水泳を習っていました。その頃は楽しくてやっていただけですが、いま考えれば、体の使い方などいろんな勉強になっていたのかなと思います。あとは、遊びですが、小学校のとき、放課後のクラブ活動でサッカーや野球もやりました。でも、結局相撲が主体でしたね」

――そういった他競技からの学びは何かありますか。

「スポーツを見るのは好きで、結構いろんな競技を見ています。単に動きなどもそうですが、トップで戦う選手たちのメンタル面や、追及をどこにしているのか、種目が違えど捉える部分は一緒なのかなと思っているからです。常に上と戦っている人たちが、どういう意識でいるのか。常に上で戦い続けるハートの強さ。負けが込むとぐるぐる考えてしまう人がいる一方で、どういう心の保ち方をしているのか。そういうことが気になります。例えば、大谷翔平選手は、トップで戦っていても謙虚な姿勢や、あまり表情に出さない落ち着きがあります。普通に考えたら、メジャー二刀流って心身共にきついと思うんですけど、そのなかでも戦い続けられる心の強さがあるんだろうなと思うんです。

ただ、真似事でよくなるわけではないので、あくまで自分がこうあるべきだと思うところに重点を置けばいいと思っています。ですから、勉強にはなりますが、かといってそれを真似て試してみるのではなく、あくまで自分のペースを貫くなかで、こういう考え方もあるんだなと、間接的な部分で考えている感じです」

アマチュアとは違う大相撲の魅力

――いろんな競技を見るなかで、あらためて相撲の魅力はどんなところにあるとお考えですか。

「アマチュア相撲には団体戦がありましたが、プロでは戦うのは自分自身です。ほかの団体スポーツでは、自分がよくても周りがよくなければ勝てないときがありますが、自分だけの勝負であることと、相撲以外のところから戦いがすでに始まっているのが魅力かなと。コロナ前、お客さんが入っているときには特に感じていたんですが、どれだけ取組前に盛り上がっていても、最後の仕切りのときだけは静かになりますよね。あの独特の雰囲気。会場すら空気が変わる、緊張感あってのスポーツであり国技です。コンタクトスポーツのなかでも生身で戦っているほうですし、そのなかでも細かい技術などいろんなことが凝縮されています。シンプルなんですが奥が深いですね。追及していくと、勝ち負けだけではないということが見えてくるのが魅力かなと思います」

――プロの力士として、伝統文化を継承していく責任感もあるかと思います。

「昔からあるものですから、伝統をしっかり受け継ぎつつ、自分たちの年代のような新しいものを取り入れていくことも大事かなと思っています。そういう意味での緊張感はいつももっていますね。アマチュアのときは、どちらかといえば監督を勝たせたい、胴上げしたいっていう気持ちがあったので、そういう面ではプロは孤独といいますか、本当に自分と向き合わなければ勝てないなと感じています。考えれば考えるほど、シンプルなのに難しくなりますね」

――貴重なお話ありがとうございます。最後に、来場所の目標をお聞かせください。

「次は上位戦も増えてくると思うので、最低でも勝ち越し、そして二桁以上を目指します。やることをしっかりやっていれば、優勝や三賞の可能性は出てくると思うので、そこを目指して頑張りたいと思います」

【プロフィール】

琴ノ若傑太(ことのわか・まさひろ)

1997年11月19日生まれ。千葉県松戸市出身。本名は鎌谷将且。元横綱・琴櫻を祖父に、元関脇・琴ノ若を父にもち、5歳から地元の相撲道場(柏少年相撲教室)で相撲を始める。小学校卒業後は、親元を離れて埼玉栄中学校、埼玉栄高校普通科スポーツコースに進学。高校3年次に主将を務め、インターハイ団体優勝、世界ジュニア相撲選手権大会では団体戦と個人戦(重量級)で優勝。高校卒業後、父が師匠を務める佐渡ヶ嶽部屋に入門。2015年11月場所で初土俵を踏む。入門から約3年半となる、19年7月場所で新十両昇進、翌20年3月場所で新入幕を果たし、史上初の3代幕内入りを達成した。四つに組んでも押し相撲でも取れる器用さと、柔軟な体で対戦相手を悩ませる。先の1月場所では、前頭14枚目の位置で優勝戦線に残り、11勝4敗の好成績で自身2度目となる敢闘賞を獲得した。最高位は西前頭3枚目。身長188cm、体重168kg。得意は右四つ・寄り・押し。

【著者プロフィール】

いいづか・さき

1989年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーランスのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(報知新聞社)、『IRONMAN』(フィットネススポーツ)、Number Web(文藝春秋)、Yahoo! ニュースなどで執筆中。

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